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「もう一度聞く。本当に、胸の痛みは大丈夫なのか?」 今度は目を細め、険しい表情で水城は訊ねる。 執拗なまでのその詰問に、瑠輝はまさかと勘ぐる。 この反応も含め、今までの薔薇の香り、そして胸の痛みは、全て自身の発情期へと関係しているのではないか。水城からの反応で、そう察していた。 「水城先生は、薔薇の香りと僕の胸の痛みとのこと――何か知っているんですか?」 今の水城へこう訊ねるのは酷く躊躇した。だが、それでも瑠輝は今、酷くその真実を知りたかった。発情期と共にこれから自身の身体へ何が起きようとしているのかを。 いつまでも、答えの分からぬ胸の痛みに悩むより真実を知り、その対策を考える方が建設的ではないか。そう思ったからだ。 長年苦しんできた薔薇の香りと連動する自身の胸の痛みが、瑠輝の推測通り、全て発情期と因果関係があるのだとすれば、ではあるが。 「――瑠輝、私からはどんな香りがする?」 唐突な水城からの質問に、瑠輝は戸惑う。 「どう、って⋯⋯」 困惑しつつも、瑠輝は強い威圧感を醸し出す水城に、先ほど感じた香りを素直に口にし始めた。 「えっと、フローラル系の薔薇の甘さを感じさせつつも、シダーとかそういうウッディ系でしょうか? 水城先生からは、そんな大人の香りがします」 一体、そんなことを言わせて何が分かるのだろうか。瑠輝は怪訝そうに水城を見つめると、小さく彼は溜息をついた。 「正解だ。それは、私が普段身につけている香水と体臭が混ざった匂いだからな」 「⋯⋯はぁ」 それがどう、瑠輝の薔薇の香りの件と関係があるのだろうか。そう思いあぐねていると、男はこう続けた。 「先日、英国でオメガの生態を研究する日本人によって、瑠輝のような変わった体質を持つオメガの事例が、論文に発表された」 「僕、のような体質の事例?」 水城の言葉に、自身のこの胸の痛みはやはり普通の反応ではなかったことを知る。 「その一件のみだから、科学的根拠としてはまだ弱い。しかも論文に発表された香りは、薔薇ではなくピュアダージリンの香りと記されていた。だが、要は同じことだと私は思っている」 「同じ、こと⋯⋯?」 瑠輝がそう返すと、水城は小さく頷いた。 「幼き頃からダージリンの香りを嗅ぐ度に、胸の違和感を覚えていたオメガの少年が、いよいよ発情間近となった時、それを知らせるかの如くダージリンの香りが、日々少年からも強く薫るようになっていったという」 「そんな、まさか⋯⋯」 水城の言葉に瑠輝は驚嘆する。

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