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莉宇の言葉が、頭から離れることなく迎えた放課後。
カフェのバイトとは別の、コンビニエンスストアのバイトも掛け持ちしている莉宇を教室から送り出した瑠輝は、独り階段を降りながら、改めて莉宇の言葉を頭の中で反芻していた。
――幸せになっていい、か。
初めて、蔓薔薇の要塞を潜った時にも、確か似たようなことを莉宇は言っていた。
その時の瑠輝はオメガである自身を卑屈に思い、莉宇の言ったことを素直に受け止められない自分に嫌気が差していた。
今はどうだろうか。
今も、正直アルファを完全に好きだとは思えないが⋯⋯。
そう考えを巡らせている中で、瑠輝は不意に煌輝の顔を思い出す。
そう言えば、放課後も迎えに来ると言っていたな。
具体的な時間も何も伝えていないのに、どうして煌輝は堂々とそんなことを言ったのだろう。
まさか、瑠輝のことを運命の番だと思っているのだろうか。
だから、細かい約束なんていらないだろうと。
そう思ったのだろうか。
否、運命の番だなんてまだ確定していない。
あくまで水城の言っていたことが正しかったとしたら。
煌輝は、間違いなく瑠輝の運命の番なのかもしれないが。
そんなのはやはり信じられない。
煌輝が聞きそびれて、結局時間に来られないのがオチだ。
下駄箱で外履きへと履き替え、下校ラッシュが過ぎたグラウンドの端を、そう自身へ言い聞かせながら瑠輝は独り歩く。
校門を出たところで、朝、煌輝と別れた場所へ瑠輝は視線を向ける。
ああ、やっぱり来てない。
そこには誰もおらず、朝の煌輝の残像だけが浮かんだ。
その後、ぐるっと瑠輝は視線を一周させ、何処にも煌輝がいないことを確認すると、「やっぱり」と安堵するのと同時に、何故だか酷く落胆していた自身にも気がついた。
「帰ろ」
小さく瑠輝は呟くと、朝は二人で来た道を独り寂しく戻ろうとする。そこで瑠輝は、はたと歩みを止める。
「あれ、って⋯⋯」
視界の先に認めたのは、間違いなく煌輝とその周りに群がる大勢の綺麗な女たちだった。その女たちの中には、世間に疎い瑠輝でも知っている有名なお嬢様学校の制服を身に纏っている者も少なくなかった。
――あれは確か、アルファばかりのお嬢様学校の制服。
こっちは、僕と同じオメガだけど良妻賢母を目指す家柄の良い女オメガしか通えない女子高の制服、だ。
間違いなく煌輝は瑠輝を迎えに来ていた。
周囲を取り囲む女の多さから、もしかするとだいぶ前から瑠輝が出て来るのを、煌輝は待っていた可能性も否めない。
それでも、瑠輝のために帰ることなく、一秒でも待ってくれていただろうその事実は、瑠輝の気持ちをより嬉しくさせていた。煌輝に群がる女たちよりも、自分の方が扱いは上なのだと。
優越感に浸っていた瑠輝は、次第に上機嫌となっていく。
だがしかし、瑠輝は煌輝の「感情に振り回された先に幸せなどない」この言葉が頭を過ぎり、はっと我に返る。
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