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「それだけここの歴史が長いってことが言いたかったんだが、あまり瑠輝には関係ないことだったな」 苦笑しながら話す煌輝に、瑠輝は自身の教養のなさを恥、俯いてしまう。 「気にするな」 瑠輝の機微を感じ取り、煌輝は後頭部を優しく撫でる。 ――煌輝、本当はこんなにも優しい人だったんだ。 こんなにも王子様みたいに恰好良くて、博識で、優しくて。 しかも、“キングローズ”という最高の肩書きまで持っていたとしたら、誰もがこの男のことを欲しいと思ってしまうのも無理はない。 自身の後頭部に一度触れただけのその手の温もりを瑠輝はとても愛おしく感じ、あっという間に煌輝を想う気持ちでいっぱいとなってしまう。 ――誰かを想って胸がいっぱいだなんて、初めての経験だ。 瑠輝がそう思っていると、煌輝はその門の中心に描かれていた薔薇の紋章に手を翳した。何がこれから起きるのだろうと、瑠輝は固唾を飲んで見護る。 すると、音もなくその門が大きく左右に割れ、宮殿のような建物が眼前に露わとなった。 初めて見る劇的なその光景に、瑠輝は思わず感嘆の声を上げ、その場へ立ち竦む。 何だ、これ。 ファンタジー映画とか、SF映画とか、とにかく現実で起きていることとは、到底思えない光景だった。 「さぁ、行こう」 瑠輝の手を引き、煌輝は堂々その中へと入って行く。 二人が門を通過すると、背の高いそれは再び音もなく閉まる。 「わっ。すごっ」 周囲を物珍しそうに瑠輝は見渡す。 だが、ここで日常的に生活を送っている煌輝には当たり前の光景であるのか、特に気にする様子もなく先へ進む。 その後ろ姿は完全に一国の主で、そもそも瑠輝とは生まれながらに住む世界が違う人種なのだと再確認する。 そうだ。 ここは、煌輝が“キングローズ”として統率する超エリートアルファを育成する機関なのだ。 途端、瑠輝は尻込みする。 「――瑠輝?」 煌輝が怪訝そうにこちらを振り向く。 「ねぇ、僕⋯⋯この中へ一緒に行ってもいいのか? 外部からの侵入は罰則の対象じゃないのか?」 不安そうに瑠輝はその想いを吐露する。 「何だ、脅えているのか? 安心しろ。俺がいいと言っているんだから大丈夫だ。ここでは俺が、その全てを司るトップだからな」 宮殿のような建物を背にしてそう言った煌輝は、立っているだけでも絶対的王者の風格が漂う、選ばれし超エリートアルファなのだと再認識した。 同時に、この男の隣りへ立つ自身を瞬間的に想像してしまい、慌ててそれを否定するように首を振った。 オメガで、シェルター暮らしの自分がこの男の隣りに立てる訳はない、と。 同時に煌輝が過去、一度だけ心揺さぶられた相手の存在を瑠輝は思い出していた。 一体その者は、どんな人物だったのだろうか。 煌輝と同じ、アルファだったのだろうか。それとも、瑠輝のようなオメガだったのだろうか。 既に煌輝の傍にはいない過去の人物だとはいえ、このエリートアルファの心を一瞬でも奪っていた者に、瑠輝は酷く嫉妬を抱いてしまう。

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