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「瑠輝は大事な俺の主賓だ。俺が望んでここへ連れて来たのだから、堂々としていればいい」
煌輝はそう言うと、掴んでいたその手をぐっと自身の方へ引き寄せると、瑠輝の肩を抱くように胸の中へ閉じ込める。
それでも瑠輝は、アルファばかりの場所へ独りオメガが、しかもシェルター暮らしの自分が紛れ込むことに躊躇いを感じてしまう。
ちらりと瑠輝は頭上を見上げると、男はふぅと軽い溜息をつく。
「今、まだ他のアルファたちはあの建物の中で講義を受けている。だから、誰も外へ出て来ることはない」
眼前へ拡がるバロック建築の宮殿を指差し、煌輝は言った。
「――え、まだ授業中なのか?」
予想外の発言に、瑠輝は唖然としてしまう。目の前の男は授業に出なくて良いのだろうかと。
だが、男は平然と次のように言葉を返す。
「ああ。だから、安心してくれて構わない」
「えっと、そういうことだけどそういうことじゃなくて⋯⋯煌輝も授業、出なくて良いのかよ?」
戸惑いながら訊ねると、煌輝の代わりに別の男の声が答える。
「“キングローズ”様だけは、特別なんだ」
聞き慣れぬ声に、瑠輝は怪訝そうな顔を向けた。
「――誰?」
右前方にはいつの間にか、煌輝とお揃いの上下純白のブレザーとスラックスへと身を包む、背の高い黒髪の男が独り立っていた。
第一印象で瑠輝は、この男がアルファだと分かった。
背格好も煌輝とほぼ変わりない。ただ、煌輝と違って短く黒い髪は、トップをふわりと立体感が出るように整髪剤で遊ばせ、今どき風にセットされている。その首元には、煌輝と同じレモンイエローのタイが巻かれていたが、薔薇の形を象ったそのタイピンは、煌輝の三連より一つ少なく、二つ並んだものが付けられていた。
「龍臣、お前こそ何でこんなところに?」
――龍臣、だって?
不機嫌そうに目を眇めながら黒髪の男のことを睨みつける煌輝の言葉に、瑠輝は瞠目する。
この男が、今でも莉宇が想う初恋の人⋯⋯。
「勝手に自主休講した“キングローズ”様には言われたくないな」
龍臣と呼ばれた男は、煌輝の反応を特に気にした様子もなく軽い口調で返す。
「これは外交だ」
言い訳することなく煌輝は言う。
“外交”――どういうことだろうか。
言葉の響きから、瑠輝はあまり好意的ではない印象を受けてしまう。
――もしかして、本当はあまり歓迎されていないのか。
「オメガを連れて帰るのが、か? というか、この子――この前倒れていたオメガだろ? 堂々、この敷地へ入れてもいいのか?」
龍臣はそう言うと、軽く自身の左手で前髪を掻き上げる。その左手薬指に、きらりと何かが輝く。
あの輝き、もしかして⋯⋯。
不意に瑠輝は、悔しそうな顔をした昨日の莉宇を思い出す。
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