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「――で、本当は何が原因で⋯⋯不調なんだ?」
無言を貫く瑠輝の背後に、莉宇はそっと問い掛ける。
「発情期はもう、終わってるんだろ?」
莉宇はそう続けて、ベッドの端へと腰掛けた。
やはり、莉宇には不調の理由を見抜かれていたのか、と瑠輝は思った。だったら何故、保健室へ連れて来たのだろうか。別に、いつもの通り屋上でも良かったのではないかと感じる。
「俺はオメガじゃないから、その⋯⋯発情期のこととか、頭では分かってても⋯⋯全てを理解するのは難しいからさ。身体のこともあるなら念のために、と思って」
優しい莉宇の言葉が、深く沈んだ瑠輝の心を少しだけ浮上させた。
「――莉宇のことを好きになりたかった」
背を向けたまま瑠輝は、独り言のように呟く。
「そしたら、こんなにも自分の身体のことで相手を傷付けることもなかったし、自分もそのせいで苦しむことはなかったのに」
失礼なことを口にしている自覚はあった。それでも瑠輝は、つい今の辛い本心を曝け出してしまう。
「⋯⋯やっぱり、惚れちゃったのか? “キングローズ”様に」
隠せない。
莉宇には本当に、隠せない。
いつも、隠せないのだ。
返事の代わりに、瑠輝はぎゅっと枕の端を握った。
それ以上もう、莉宇は何も言わずに瑠輝の頭を二度優しく撫でると、その場から静かに立ち去る。
こんなにも相性が良いというのに、決してお互いそう言った意味で好き合うことはないこの関係に、瑠輝はそっと瞳を閉じた。
発情期直後と精神的に参っていたこともあり、あれから瑠輝は放課後まで保健室でずっと眠り続けていた。
「よく寝たかも」
いつの間にか莉宇が届けてくれた鞄を肩に引っ掛け、保健室を出た瑠輝は、だいぶ自身の頭がすっきりしたことに気が付く。
――まだ、バイトを休みにしていて助かったかも。
軽く安堵しながらグランドの端を歩いていた瑠輝は、不意に校外から女子生徒たちの黄色い歓声が上がるのを聞く。
放課後に、一体何をそこまで騒いでいるのだろうか。不思議に思った瑠輝は、校門まで来たところで、その黄色い歓声を上げていた正体に驚愕する。
いつもの純白の制服こそ着ていなかったが、煌輝は白のTシャツのインナーに、上下ネイビーのスーツセットアップという、幾分かカジュアルダウンされた姿で校門の脇へと立っていた。その付近に先日とは違う黒のシティサイクルを認め、また独りで煌輝はここまで来たのだと察する。
同時に、とても同い年には見えない大人びた外見に、瑠輝は改めて惚れてしまう。
「待ってたよ、瑠輝」
私服でも神々しいオーラが消えることのない煌輝は、瑠輝に気が付くなりこちらへと軽く手を上げた。
「ウ、ウソ。⋯⋯煌輝、どうして?」
――大怪我、したんじゃないのかよ。
瞬時に瑠輝は動揺したが、あまりに驚き過ぎてその先の言葉は出ないでいた。
「どうして、って。そんなの決まってるだろ。瑠輝に逢いに来たんだ」
男はそう言うと、手にしていたシティサイクルのベルをちりんちりんとご機嫌に鳴らす。
「――そう言う訳だから」
周囲を取り囲んでいた女子生徒たちへ冷ややかに煌輝は言い放つと、人払いをしながら瑠輝の手だけを自身の方へと引き寄せた。
女子たちが不満の声を上げる中、煌輝は一切それを相手にすることはなく、瑠輝だけにその甘く蕩けるような視線を注いでいた。
まるでそれは、瑠輝の発情期なんて無かったかのような、そんな優しい、やさしい視線だった。
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