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瑠輝はその視線がとても嬉しくて、だがむず痒くて、つい視線を外し俯いてしまう。 そこでふと、今回煌輝が乗ってきたであろうそのシティサイクルには、後輪に備え付けの荷台置き場と呼ばれるキャリアが付いていることに気が付く。 ――もしかして前回、僕が後ろに乗るのが怖いって言ったからわざわざ座れるタイプの自転車を? 次第に瑠輝の顔は綻び、飴色のその瞳をぱあっと輝かせながら煌輝の顔を見上げていた。 「⋯⋯瑠輝」 ふうっと煌輝は大きな溜息をつく。 瑠輝はどうして溜息を、と思ったがすぐ様その理由を煌輝自身が説明する。 「だから、無意識にそういう可愛い顔されるとこちらは本当に困るんだ。――抱き締めて、キス⋯⋯したくなる」 耳許で甘く湿った声で囁かれ、瑠輝の顔はこれ以上なく紅潮した。 ――ウソ。何、この煌輝の声の破壊力。 この声だけで、発情期がまたぶり返してしまいそうだ。 否、今度こそ煌輝の前で発情期という失態は冒せない。 激しく動揺した瑠輝は、自身の心を落ち着かせるため深呼吸を一つする。 ――あ、そうだ。そういえば今日の僕、念の為に発情抑制剤を飲んでいたんだ。 保健室での出来事を思い出した瑠輝は、だから今日は煌輝の傍にいても大丈夫なのだと、安心するためそう自身へ言い聞かせる。 「⋯⋯でも、瑠輝の可愛いキス顔は俺だけのモノにしておきたいから、とりあえずキスは保留だ」 煌輝はそう言うと、軽々瑠輝を両手で持ち上げシティサイクルのキャリアへと座らせた。 「あ、だけどこれくらいは許されるか?」 独り言のように煌輝は呟くと、瑠輝の額にチュッと挨拶程度のキスをした。 途端に、唇が触れた箇所がびりっと熱を帯び、瑠輝の鼓動は早く脈打ち始める。 同時に、発情期でもないというのに黒のスラックスの下で自身の熱雄が首をもたげるのが分かった。 ――全くこれは許されない行為だ。 恨めしそうに瑠輝はじっと煌輝を見つめると、「キス待ち顔か?」と嬉しそうな顔した煌輝に却って誤解されてしまう。 「ち、ちがっ⋯⋯」 思わず反論の声を上げようとしたが、それよりも先に煌輝が瑠輝の鞄を素早く肩から取り去ると、それを盾にし周囲から見えないようその裏で、甘く蕩ける接吻を仕掛けてきた。 大胆に舌は絡められ、湿った蜜音が瑠輝の耳許へ届く。 それだけで瑠輝の下腹部は更なる熱を灯し、その角度と硬度を増していった。発情抑制剤など、意味がないと瑠輝は思った。 抑制されていた自身のが(たが)外れていく。 いけない、と思ったがもう遅かった。 感情は昂り、拙いながら瑠輝からも舌を絡め、煌輝が自分にしてくれるように形の良いその唇を、わざと湿った音を立て吸っていく。 蜜のような唾液が互いの口腔内を行き来し、二人の呼吸も次第に獣じみたものへと変化していった。 人通りのあるこんなところで、と僅かに残る理性が瑠輝に警鐘を鳴らす。だが既に火のついてしまったその身体は、まるで導火線のように一度滾り出した情欲を止められないでいる。 もっとキスが欲しい。 もっと、煌輝が欲しいと。恥ずかしげもなく、瑠輝はそう目の前の男のことを切望してしまう。

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