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結局のところ、自身という人間を支配しているオメガ性が、極上のアルファである煌輝を本能から切望しているせいなのかもしれない。
出逢って間もない二人が、ましてやこれほどまでに階級の差がある二人が引き合うなど、それ以外考えられないであろう。
朧気ながらそう考えていた瑠輝は、とろんとした瞳で煌輝を見つめる。すると、彼は名残惜しそうに唇を離し、苦笑した。
「このままだと、瑠輝はまた発情期を起こしてしまいそうだな」
「ウ、ウソ⋯⋯」
自覚症状はあったがそれを改めて指摘されると、厭らしい気持ちで煌輝を求めていたことに気付かれてしまったようで、たちまち羞恥心がこみ上げてくる。
「そうだ。それほど甘い匂いがして、色っぽい顔をして――まるで俺に襲ってくださいと言わんばかりの可愛い顔をしているぞ」
クスリと笑う煌輝は私服を着ていてもやはり王子様然としており、その笑顔だけで瑠輝の心は酷くときめいてしまう。
――僕だって、これ以上そんなキラキラな王子様の顔を見せられたら⋯⋯もう。
「今度、俺の前で発情したら――俺だけの瑠輝に⋯⋯なってくれるか?」
爽やかにさらりとそう告げた煌輝の瞳は、一見して甘やかなマロン色したその奥に誰にも気が付かれないほどの獰猛な色をひっそりと宿していた。
浮かれていた瑠輝はそれには気が付かず、舞い上がってしまう。
「ぼ、僕が⋯⋯煌輝の?」
上擦った声で瑠輝は言う。さすがに冗談だろうと思った。
まるでそれは、プロポーズのように思えたからだ。
「そうだが」
にこやかな笑顔を浮かべていたが、何か問題でもと言った表情をしていた。
決してそこには、瑠輝を揶揄しているような表情はない。
「うかうかしていると、瑠輝の傍にいる別のヤツに盗られてしまう可能性が高いからな」
真剣な表情で煌輝は告げる。
どうしてそこまで僕のことを、と瑠輝は思った。
「言ったろ。アルファのことは好きにならなくていい。俺だけを好きになってくれればそれでいい、と」
戸惑うばかりの煌輝からの直球な告白の数々に、今度こそ瑠輝の口からは「どうして⋯⋯?」という言葉が洩れてしまう。
煌輝はそれには答えず、こう言った。
「今日は少し遠出をしようか」
ふわりと煌輝はこちらへ笑いかけると、サドルへ跨り、行き先を告げることなく静かにペダルを漕ぎ始める。
何処へ行くのだろう。瑠輝はそう思ったが、不思議と怖さはない。それどころか、期待に胸が忙 しく揺れ動くのを感じていた。
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