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「怖くない」 背後から真剣な声色でそう話す煌輝にギュッと強く抱き締められる。 「⋯⋯え?」 激しく動揺した瑠輝は、砂浜まで寄せてきた波に逃げ遅れ、水を含んだスラックスの裾は重さを増す。 原因がそのせいではなかったが、瑠輝は煌輝の腕の中で金縛りにあったかの如く、動けないでいた。 「もう、怖いことなど何もない。だって、誰よりも俺が瑠輝のことを必要としているんだから」 煌輝はそう言うと、瑠輝を抱き締めるその手により力を込める。さながら、ここに自分が居ることを決して忘れるな、と主張しているようだった。 「⋯⋯煌、輝?」 「過去は変えられないが、瑠輝のこれからはいくらでも俺が変えてやれる。⋯⋯瑠輝が不安にならないよう、俺が一生瑠輝を幸せにしてやるから⋯⋯もう、悲しい言葉は口にするな」 細い瑠輝の首筋に煌輝は顔を埋め、震えながら言う。酔狂ではない。真摯に煌輝が自分へと向き合ってくれているのだと、伝わってくる。 自身を抱き締めている大きな手の上に、瑠輝はそっと手を乗せた。 すると煌輝は一等低い声でこう続けた。 「もし、今度それを口にしてみろ。俺がキスでその口を塞いでやる。覚悟しとけ」 いつもの絶対的王子様然として煌輝はそう言い放つと、瑠輝の顎を掴み自身の方へ身体ごと向ける。間髪入れず、そこから形の良い唇を重ねる。 「ん⋯⋯っ⋯⋯ぅう⋯⋯ふぅ⋯⋯ンん」 太い男の舌が瑠輝の口腔内へ侵入し、ねっとりと舌を貪られていく。 ちゅぷちゅぷと蜜で濡れる音がし、あっという間に瑠輝はのぼせ上がる。頭の中はぼうっと白み、瑠輝の全身はキスだけで無視できない熱の上昇を感じていく。 ――そうだ。この男のキスは、とんでもないものだった。 あらぬところまで熱を灯してしまう⋯⋯そんなキケンな、危険な接吻――なのだ。 お互いの銀糸で濡れそぼった舌を煌輝は一時的に引き抜くと、色濃く瞬くマロン色の瞳でじっとこちらを見つめた。 「――瑠輝が欲しい」 飴色した瑠輝の瞳の奥が一瞬大きく揺れ、「欲しい」という言葉の意味を反芻する。 「ほしい、って⋯⋯どういう、いみ?」 身体が感情に追いつかないその口で、瑠輝は煌輝の言葉を繰り返す。 「こういう意味、だ――」 煌輝は瑠輝の学ランの第一ボタンを丁寧に外すと、そこに隠れていた漆黒のネックプロテクターの上をゆっくり手でなぞった。 艶かしいその仕草に瑠輝の背筋はぞくりと鳥肌が立つ。 「これを外して、瑠輝と一つになりたい。番に、なりたいんだ」 出逢った頃のような、瑠輝を揶揄していた頃の煌輝は完全になりを潜めていた。ここ最近の煌輝の動向からして、その発言の全てが嘘だとは思えない。 だが、それにしては解決していない事柄が多過ぎて安易に頷けない自分がいる。

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