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「うわっ」 無防備だった瑠輝は、当然前方へとバランスを崩す。座っていた煌輝の身体へ飛び込む形で、二人抱き合うようにその身体は重なる。 「瑠輝にだったら、心揺さぶられる覚悟――俺はできている」 煌輝は瑠輝の顎を掴むと、自身の方へとその顔を向けた。 整った顔を間近にし、それだけで瑠輝の心は跳ねる。 この顔に騙されてはいけない。 この甘い言葉に騙されてはいけない。 たとえ一時、想いが重なり合い番になったとしても、この男は将来国の主となる者だ。 瑠輝とは、その出自も何もかもが違う。 煌輝の配偶者として、シェルター暮らしの自分は堂々と隣りに立てるだろうか。 やはり瑠輝では力不足だった。番を解消しようと、いつかそうなってしまうのではなかろうかと、つい不安が過ぎる。 「⋯⋯ム、リ⋯⋯ムリ、だよ」 怖気づき身体を離そうとする瑠輝を、煌輝はがっしりと抱き締め離さない。 「ムリじゃない。俺たちは大丈夫だ」 言いかせるように煌輝は言う。 「⋯⋯何の根拠を持って、そんなこと言ってんだよ」 どくどくと早鐘を打つ煌輝の鼓動を感じながら瑠輝は返す。 間違いなく煌輝も不安、そして焦りを感じているのだろう。 「だったら人は根拠がなきゃ、恋しちゃいけないって言うのかよ? 俺だって⋯⋯“キングローズ”だ何だと言われているが、それ以前に独りの人間だ。感情を持って生まれたんだから、恋だってする」 慟哭のような煌輝の悲痛な叫びに、瑠輝は複雑な表情を禁じ得ない。 「⋯⋯煌輝の言っていることは、その⋯⋯分かるよ。分かるけど、でも⋯⋯僕たち、あまりにも持って生まれたものが⋯⋯違い過ぎる、だろ?」 一言ひとこと、自身にも言い聞かせるよう瑠輝は目の前の煌輝に向けて言葉を発した。それでも煌輝は食さがる様子は見て取れない。 「⋯⋯っ、好きなんだよ、瑠輝のこと。どうしようもないくらいに好き、なんだよ。何で分かってくれないんだ」 行き場のない想いをその拳に込め、煌輝は地面に拡がる砂浜へ「クソっ」と叫びながら強くぶつける。 「煌輝⋯⋯」 痛々しいほどにその想いを感じ取ってしまった瑠輝は、その手を止めようとする。 だが、瑠輝を強く抱き締めていたもう片方の腕でその動きは封じられ、強引にキスされてしまう。 先ほどのキスとは違う。 瑠輝という存在を確かめながら、その悔しさが滲み出た、強引なキスであった。 「ん⋯⋯ふぅ⋯⋯ァ⋯⋯やぁ⋯⋯っこぉき、ゃ⋯⋯だあ」 甘い声を上げたくなくとも、強引なそれについ瑠輝は翻弄されてしまう。 拒否混じりの声を聞いた煌輝のキスは、次第に甘く優しく、贖罪に似たようなキスへと変わっていく。 大切に瑠輝のことを思っている気持ちがそこから伝播し、心が酷く苦しくなる。

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