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「好きだ、瑠輝」
真摯な熱い想いを信じたかった。
重ねられた熱い身体からは、激しく脈打つ煌輝の鼓動が伝わってくる。
決して、嘘をついているとは思えない。
「好き、すき、好きだ」
迷いなく伝えてくる想いに、とうとう瑠輝は覚悟を決める必要があるのだと察する。
「――僕で⋯⋯いいのかよ?」
戸惑いながら背後の煌輝を窺う。
「当たり前だ。こんなにも俺の心を弄ぶのは、後にも先にも瑠輝しかいない」
「⋯⋯でも俺、普通のオメガじゃないし」
「関係ない」
間髪入れずに煌輝は応える。
「⋯⋯どこの馬の骨か、分からないんだぜ?」
自嘲しながら瑠輝は言った。
「関係ない」
「⋯⋯それに僕たち、まだ学生だ。これから先、お互いもっと相応しい相手が現れるかも⋯⋯」
「関係ない!」
言葉を遮るように、煌輝は大声を張り上げる。
「でも、煌輝と僕が番になって⋯⋯その、もし――子どもが生まれたとして⋯⋯その子がオメガがだったとしても⋯⋯その⋯⋯」
「関係ない。絶対に大切にする。瑠輝との子どもだったら、たとえどんな子が生まれてきても――俺にはその存在自体が全て愛しい」
煌輝はそう言うと、右手で瑠輝の身体を抱きかかえ、ジャケットを避け砂浜へと寝転ぶ。
「――俺の子、生んでくれる気になってくれたんだな」
腕の中に居る瑠輝の頭を優しく撫で、柔らかく言った。
しまった、と瑠輝は両手で顔を覆う。
「分かってる。今はまだ、覚悟を決めなくていいから。一瞬でも、そう思ってくれただけで――俺、嬉しいから」
華奢な瑠輝の肩をそっと優しく抱き締める。
胸に顔を埋めていた瑠輝は、その優しさに心震わせた。
優しい。
優し過ぎて、却って怖い。
怖いのだ。
いつか、この気持ちが他へ逸れてしまうのではないか、と。
優しくて、恰好良くて、家柄も良い正真正銘の王子様が、瑠輝のことをこの先もずっと好きでいてくれるとは思えない。
現に、兄の面影を瑠輝に重ねていた訳で。
それでも尚、この腕の優しさを恐れと共に信じたい。そう強く思った。
不意に瑠輝はその胸の中から上体を起こすと、項へ手を伸ばした。
細い首につけられた漆黒のそれは、本人の指紋認証でのみ外せるものだ。望まぬ性犯罪に巻き込まれた際、決して他人からは外せないよう触れる順番なども人それぞれで、厳重になっている。
「――煌輝の前では、外す」
項の一点を人差し指や中指などいくつかの指で触れる。
カチャンと何かが外れる音がして、その枷は瑠輝の手の中へと移った。
「瑠輝⋯⋯」
目の前の男が瞠目するのが分かった。
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