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「これが今、俺にできる精いっぱいだ」
本来、人として生きる上で必要ないものがそこから消え、瑠輝の美しい白く細い首がより協調される。
ごくっと煌輝が唾を呑み込む。
「発情期じゃないけど、項⋯⋯噛めよ」
肌けた首元を見せつけるように、学ランの襟をずらす。
ぐっと瑠輝の臀部に熱く硬いものが触れ、煌輝の雄が再び力を取り戻していることを知る。
――煌輝がまた僕に、欲情して⋯⋯。
「瑠輝、首まで真っ赤だ」
上体をゆっくり起こした煌輝は、そう告げると首筋にチュッとキスをした。
唇が触れたところが酷く熱い。
ドキドキする。
「今にも蕩けそうな顔してるな」
一言そう告げると、煌輝は一度口付けた箇所をきつく吸う。
「ぁ⋯⋯」
「ソレ、着けてたら見えないところに痕――つけたから。俺の番だって、証を」
瑠輝が持っていたネックプロテクターを、煌輝は顎で示す。
発情期でもなく、ましてや項でもなく、ただ首筋につけられたキスマークだというのに、瑠輝の心は大きな幸せに充ちる。
「嬉しい」
体温が少し高い煌輝の首へと、瑠輝はギュッと抱きつく。
「こら。今、俺がどんな状態だか分かってるのか?」
眉を寄せ、困惑した表情で煌輝は言った。
臀部に擦られたその熱雄が、瑠輝の密着と共により嵩を増していたのだ。
「わっ⋯⋯」
慌てて瑠輝は身体を離す。
「今夜はもう、帰ろう。これ以上密着したら、抑えられる自身がないから」
苦笑しながら、煌輝は傍に置いたままのジャケットを左手で引き寄せる。胸ポケットから携帯用のウエットティッシュを取り出し、瑠輝の雄周辺を丁寧に拭き始める。
自身の雄も手早く拭き、まだ鎮まることのない熱を布地の中へ無理やり納めていく。
海辺へ来た時と同じ恰好へ戻った二人は、砂で汚れることを気にすることなく、黙って横並びに座る。
月灯りもいよいよ厚い雲の中へと姿を消し、ただ荒波の音だけが耳に届いていた。
ブーブーと携帯電話が震える音がして、瑠輝は左へ座る煌輝に視線を向ける。
煌輝はまたそれを無視し、そっと瑠輝の肩へ凭れた。
――煌輝の身体、酷く熱い。
まだ、発情⋯⋯してるのか?
否、ラットになる訳はない。だって、僕が発情期ではないのだから。
ふわりと香る薔薇の甘く華やかな匂いを鼻腔に感じながら、瑠輝は先ほどの熱い伽を思い出す。交わることはなかったが、どれも初めてであったその体験に、瑠輝は頬を紅く染めた。
――今日は何度、顔を紅くし、何度、ドキドキしているんだろう。
煌輝の身体の重みにでさえ幸せを感じていると、不意にその身体が瑠輝を押し倒すようにのしかかってくる。
「ちょ、ちょっと煌輝! もう今日はくっつかないんじゃないのかよ!」
倒れてきた逞しい肩を、瑠輝は力いっぱいに押し戻そうとする。
だが、その身体は瑠輝が伸ばしていた大腿の上へ、ずるっと滑り込むようにして倒れ込んだ。
「⋯⋯え?」
咄嗟に状況が呑み込めなかった瑠輝は、その動きをゆっくり目で追う。
「煌輝?」
自身の脚の上へ倒れ込んだ男へ、恐る恐る声をかける。
返事は⋯⋯ない。
軽くトントンと瑠輝はその肩を叩く。
やはり、反応はない。
――ウソ。どういうこと、だ?
途端、強い不安感に苛まれる。
「⋯⋯煌輝? なぁ、煌輝⋯⋯どうしたんだよ? こーき! こーきぃ!」
肩を大きく揺さぶりながら口にしていた名前が、次第に悲痛な叫び声へと変わっていく。
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