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「⋯⋯もしもし」 悲痛な叫びで胸をいっぱいにしながら、瑠輝は恐る恐る受話器の向こう側へと喋りかける。 『おい煌輝! お前、何でずっと電話出なかったんだよ? ⋯⋯って、誰だ? 』 開口一番、龍臣の怒鳴り声が聞こえ、それは徐々に訝しる声色へと変わっていく。 電話越しとはいえ、彼への苦手意識から瑠輝はついびくっと肩を揺らしてしまう。 『⋯⋯また新しいセフレか? 悪いが、こちらは急ぎの用がある。煌輝に代わってくれ』 鼻先でふんと笑った後、淡々と龍臣はそう告げた。 新しいセフレ――簡単にそう言って退ける龍臣は、電話口の人物が瑠輝であることに気がついていないようだ。 無理もない。超エリートアルファの龍臣からすれば、シェルター暮らしのオメガなど最初からその眼中にはないのだ。 併せて、煌輝の電話にはその類の人物が当然のように出ることを瑠輝は知る。 心を乱す恋はしたくない。過去、煌輝が言っていた言葉にはやはりそのような意味も含んでいたのだ。 覚悟していたつもりだが、第三者からその形跡を告げられると、やはり複雑な気持ちは否めない。 だが今、瑠輝はそれを気にしている場合ではないのだ。まず、煌輝を助けることが先決なのだ。 苦い顔を書き換えるよう、瑠輝は一度息を吸うと、こう懇願した。 「助けて! ⋯⋯煌輝を助けて下さい!」 『――は? 助けて下さいって⋯⋯煌輝に何かあったのか?』 「倒れたんです! 腕の包帯も血まみれで⋯⋯しかもこの大雨なのに、避難するところが近くにどこもなくて⋯⋯どうしたら良いか分からないんです!」 『何があった? 今、煌輝は隣りにいるのか?』 「僕もよく分かりません。煌輝は意識がなくて⋯⋯でも、僕と一緒にいます!」 逸る気持ちを押さえ瑠輝はそう応えると、横たわっている煌輝の肩をギュッと強く抱き締めた。 『――悪いが、その携帯電話からこちらへ位置情報を送ってくれ』 「いち、じょうほう?」 聞きなれぬ言葉に、瑠輝は問い返す。 電話口の龍臣が呆れたように小さく溜息をつく。 『今から俺の言う通りに、その携帯電話を操作しろ』 「え、救急車は?」 電話だというのに身を乗り出し訊ねる。 『呼ぶと少々厄介なことになる。騒ぎを大きくしたくない』 龍臣はそう言うと、携帯を触ったことのない瑠輝でも分かるよう、口頭で丁寧にその手順を指示した。 無事、携帯電話のアプリから二人の居場所を送信すると、龍臣は『分かった。すぐそこへ駆けつける』と冷静に告げ、通話を切った。 ――これで助かる。 安堵した瑠輝は、もう一度雨に酷く濡れた煌輝の身体をギュッと抱き締めた。

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