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9-2
ナースステーションからほど近い、六階の呼吸器内科の特別個室へ瑠輝はずっと入院していた。
週三回、決まって月水金曜日の午前十一時前、巨大カゴ代車へ大量のリネンを乗せた業者がステーション前のエレベーターを使用し、病棟へ時間差で二台上がって来る。
ほとんどの患者が入院着や自前の寝巻きで病棟内を行き来する中、学ランを来た人物がそのままエレベーターへ乗ってしまったら、すぐ様瑠輝だと特定されてしまう。
なるべく目撃者を少なく外へ出るとするならば、大きな代車で姿を隠すことができるそのタイミングしかない。
十時五十分。
病室のドアから、じっとエレベーターの到着を確認する。
予想通り、時間丁度にエレベータードアが開き、中から一台目のカゴ台車が降りてきた。業者が搬入の確認でナースステーションへと立ち寄り、その台車で一瞬だけ死角ができる。その隙に、瑠輝は周囲を警戒しながらエレベーターへと乗り込み、二台目の台車が待つ一階へと素知らぬ顔で降り立った。
一階まで降りてしまったら、後は堂々と振る舞うだけだ。
迷いが少しでもあったら、周囲にその不自然さがバレてしまう。
とは言っても、瑠輝は裏庭くらいからしか外へ出る方法を知らない。とりあえず、先日心織へ初めて連れて行ってもらった、あの森の奥から敷地外を目指すことにする。
森の入口まで来た瑠輝は、周囲に誰もいないことを確認すると、すぐ様そこから走り出す。森の中を一気に駆け抜け、先日煌輝が立っていた簡易扉の前へ辿り着くと、途端に瑠輝の脚は竦んでしまう。
――ここから外へ出たら。
一歩、ここから外へと出たら僕は⋯⋯。
突然、“自由”になることへの強い不安を覚える。
強い緊張が喉まで込み上げ、指先は冷汗を帯びていく。
覚悟を決めていたはずだが、自由を前に尻込みをしてしまう。
――本当は⋯⋯怖い?
外へ出るのが⋯⋯怖い、のか?
自身の鼓膜へ、早く脈を打つ音が聞こえてきた。
――どうしよう。今だったらまだ、後戻りはできる。
だが、それで⋯⋯元の生活へ戻ることで、果たして瑠輝は自分を――オメガの自身をこの先、許して生きていけるだろうか。
不安から、ちらりと瑠輝は背後を振り返る。嘲笑うようにして吹く強風で、曇りにより日が照らない森は不気味なほど大きく揺れ、瑠輝はそこへ恐怖を感じた。
――この中を通って来たと言うのに。これはもう、前へ進めということなのだろうか。
鉛のように重いその脚を、ようやく瑠輝は一歩前へと踏み出そうとする。
「今日が退院だったのか?」
簡易扉の開く音がし、そこから中へと入って来た者に、瑠輝は声を掛けられた。
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