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他意はないのだろうが、瑠輝はその言葉の裏に、いよいよ煌輝と番になるのかもしれないのだ、という未来をつい意識してしまう。 ――もしかすると、僕はこの家で煌輝と⋯⋯。 入院して以来、そう言えばその首には項を隠すネックプロテクターを嵌めていない。 否、それだと語弊がある。 意識が戻った時には、そのネックプロテクターは既に瑠輝の手荷物の中にはなかったのだ。 もしかすると入院中、検査の邪魔になってしまうため、シェルター職員が持って帰ったのだろうか。 現時点では、煌輝と行動を共にしているため、一応は必要ないのだが。 ――煌輝と一緒に居る時は、外すんだって。そう⋯⋯約束、したから。 何もない、解放されすっきりした自身の項へ軽く瑠輝は触れる。 「――ネックプロテクターがなくて⋯⋯不安か?」 不意に煌輝が訊ねた。 違うんだ、と瑠輝はゆっくり首を振る。 「違う。煌輝と――約束したじゃん。一緒の時は、嵌めないって⋯⋯さ」 というか、元々ネックプロテクターはなかったんだけど。と言う、瑠輝の言葉は煌輝の耳には届かなかったようで、その瞬間、薔薇の香り漂うその胸へ強く引き寄せられる。 「瑠輝。もう、本当に可愛い⋯⋯可愛すぎる。今すぐ押し倒して、俺だけの瑠輝にしたい」 マロン色の瞳が熱っぽくこちらを見つめる。瑠輝はそれだけで、全身に熱が灯るような錯覚に陥ってしまう。 だが同時に、龍臣の言葉がここでも呪いのように邪魔をする。指先を中心に、瑠輝の全身はトラウマから震え出す。 ――あああ。やっぱり、ダメ⋯⋯だ。 煌輝の傍には居られない。 傍に居ると、龍臣の言葉を何度も思い出してしまう。 先ほどは、病院から逃げて来るのが必死で、つい煌輝に頼ってしまったのだが⋯⋯。 「あ、のさ⋯⋯」 煌輝の腕から逃げ、あえて瑠輝は背を向け、自身の不安を口にし始める。もし、顔を見てしまったら、様々な感情から自分自身を保てなくなってしまいそうだったからだ。 「――もう一度言うけど僕、シェルターのオメガだ。親も誰だか分からないし、その⋯⋯将来、星宮の家に相応しいほどの教養もないし、察しも良いとは言えないし⋯⋯」 ぽつりぽつりと話す瑠輝を、黙って煌輝は背後から強く抱き締める。 「⋯⋯煌輝?」 戸惑う瑠輝の小さな背中に、煌輝は抱き締めたまま凭れるようにして身を委ねた。

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