117 / 139

9-8

「生意気な瑠輝らしくない」 全身を預けたまま煌輝は呟く。 「⋯⋯生意気なんかじゃない。ただいつも、僕は自分の意思が人より少し、明確なだけだ」 震えが止まらない瑠輝の指先を、煌輝がぎゅっと握る。 「だったら、瑠輝がはっきりと俺の番になりたいと意思が持てるよう、愛するほかないようだな」 無防備な瑠輝の項へ、煌輝は優しい接吻を落とす。 ビクッと瑠輝の肩は揺れ、酷く煌輝を警戒しているのが分かった。 先日、律儀に二人の間で交わした約束を確かに瑠輝は守っている。 だが、その様子がおかしいことは誰の目から見ても明らかだ。 一体、瑠輝の身に何があったというのだろうか。 「――きっと後悔する」 背を向けたまま瑠輝は言った。 「煌輝は、僕を愛したらきっと後悔する」 「する訳ない」 間髪入れずに煌輝が否定する。 「僕を愛してしまったら、きっと煌輝はすぐにそのことを後悔して、幻滅するんだ」 「する訳ない」 またしても煌輝は即否定し、強引に瑠輝の顔を自身の方へ向ける。 「愛してる」 煌輝はそう言って、唇を重ねた。 優しい口調とは裏腹に、強引に舌をねじ込まれ、息が出来なくなるほど瑠輝の舌は絡め取られていく。 「はァ⋯⋯ぁあ⋯⋯ア⋯⋯ン」 吐息と共に、瑠輝の身体が歓喜する声が洩れる。 長い睫毛の下、マロン色した煌輝の瞳がその声に反応し、ゆらりと官能的に揺らめいた。 とろんとした蜜糸を口の端に溢したまま、飢えた煌輝の舌が、不意に口腔内から出ていく。 「愛してるなんて言葉より、発情した瑠輝の項を噛む方が、俺が後悔していないことを――本気であることを、瑠輝に伝えられるだろうか」 いつの間にか、顔だけでなく瑠輝の全身ごと、煌輝の方へ向けられていた。 真剣な眼差しは、煌輝が発していることが決して冗談ではないことを物語っている。 だからこそ瑠輝は首を小さく振り、頑なに無言で拒否を示す。 「発情期が来るまで、余計なことを考えられないように、瑠輝をここへ閉じ込めて独り占めしたい」 煌輝は大きな手を、何もない瑠輝の喉仏の辺りをネックプロテクターの形をなぞるように這う。 大きなその手から、瑠輝の身体にゾクゾクと快感が生まれていく。 「高校を卒業したら、どのみちシェルターを出ないとなんだろ?」 むしろ今日、何もかもを捨てる覚悟であった瑠輝はその言葉にドキッとした。 「ちょうどいい。俺のところへ永久就職するんだ」 右手を煌輝に掴まれ、そのまま甲へ恭しくキスされる。 「⋯⋯っ、永久就職ってそんな簡単に! さっきからそんな勝手なこと、ばかりで⋯⋯」 「何か問題があるならば一緒に解決をしたい。星宮の家に相応しくないと瑠輝が思うのならば、俺が家を出てもいい」 「⋯⋯家を、出る――? キングローズの、煌輝が⋯⋯?」 目の前が真っ暗となり、龍臣の顔がちらついた。 ダメだ。 こんなことを、煌輝に言わせたい訳ではないはずなのだが。 益々、これでは状況が悪化していく一方ではないか、と瑠輝は感じてしまう。

ともだちにシェアしよう!