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「俺の覚悟が生半可なものではないことくらい――先ほどのことで分かっただろう?」
接吻していた手を、煌輝はクンと自身の胸へ引き寄せ、瑠輝の肩を抱く。
――ズルい。そんなことを言われたらもう、僕は頷くしか選択肢がないじゃないか。
あんなにも辛く、怖い思いをするのはもう⋯⋯懲り懲りだ。
「もう⋯⋯絶対にあんなこと⋯⋯するなよな」
微かに震えた声で、瑠輝は念を押すように告げた。
「だったら俺が――二度と無茶しないよう、二十四時間俺の傍に居て、その全てを逐一監視していろ」
肩を抱く煌輝の手に、ぐっと強く力が込められる。静かに、だが、確かな煌輝の強い意志をそこへ感じた。
きっと何があっても煌輝は自分を大切にしてくれるのだろう。瑠輝はその想いがとても嬉しかった。
しかしそれは、今まで煌輝が着実に積み上げてきたものを、全て壊してしまうものではないだろうかと不安を覚える。
「⋯⋯何だよ、ソレ。相変わらず、超偉そうだし。ああ、そっか⋯⋯煌輝は“キングローズ”だから、将来この国を背負って立つ偉い人になるんだもんな。僕とは違う⋯⋯」
ハハと瑠輝はわざと乾いた笑みを浮かべ、煌輝の言葉を交わす。
「⋯⋯違わない」
煌輝から漂う薔薇の香りは色濃くなり、瑠輝の鼻腔の奥は、媚毒でじんじんと麻痺したような感覚が拡がっていく。
終わったはずの発情期が、まるで今にも起きそうな、そんな予兆を鼻腔から全身へと感じ始める。
――身体がおかしい。発情期って⋯⋯三ヵ月に一度来るものじゃないのか。
煌輝の胸へ顔を伏せたまま、瑠輝は気が付かれないよう、そっと自身の鼻を手で覆った。
「それに好きな人、独りも大切にできていない俺が、国を背負うなんてことは到底無理だろう」
煌輝はその様子に気が付かず、そのまま瑠輝を軽々と抱き上げる。
「煌輝?」
突然瑠輝の身体は宙へ浮き、驚愕したことで、つい鼻から手を離してしまう。
鼻腔いっぱいに薔薇の香りを吸い、頭がクラクラしてくる。
身体が熱を帯びていく。
「発情期が終わって1ヵ月も経っていないというのに、瑠輝の匂い――だいぶ強くなっているな」
煌輝だって、と甘い痺れを感じながら、瑠輝は頭の片隅で返していた。
「もしかして、瑠輝と番になりたいと思っていたから⋯⋯このタイミングで、キセキが起きたか?」
顔を綻ばせながら告げる煌輝は、心から瑠輝と番になることを本気で望んでいるように見える。
――どうして僕、なんだよ。
煌輝だったら、相手には困らず引く手あまただというのに。
そして、自分も。
あれだけアルファと番たくないと、強く誓っていたのに。
ましてや、龍臣の言葉でフラッシュバックするほど、怖い思いをしていたはずなのに。
それでも項を晒してしまうほど、煌輝のことを全身で求めてしまっているのだ。
「目が潤んでる」
煌輝に指摘され、羞恥から咄嗟に目を瞑る。
「隠さないで、俺を見るんだ。二十四時間、瑠輝は片時も俺から目を離すことなく、監視しなけらばならなくなったんだから」
瑠輝の伏せた瞼にチュッと軽いキスをした。
「知らな⋯⋯」
頬を紅潮させ、瑠輝は首を振る。
「知らないとは言わせない。無関係とは言わせない。俺は、誰よりも瑠輝を大切にしたいんだ。だから――瑠輝の人生を、全て俺に⋯⋯背負わせて欲しい」
互いの目と目が合致し、煌輝は淀みなく告げた。
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