119 / 139
9-10
返事の代わりに、瑠輝の飴色の瞳はより深く潤む。
煌輝はそのまま入って来たドアから、リビングの外へ出た。
「俺の部屋へ行こう」
自身の姿が反射するほど磨かれた白亜の床を、煌輝は早歩きで突き当たりまで進んだ後、左へと曲がった。そこから踏み込み板のない白色のオープン階段を上り、途中踊り場を通過すると、いくつもある部屋のドアの中から一番遠い場所にあったその中へ入る。
お屋敷、という言葉が相応しい家だと、心落ち着かない瑠輝は思った。
やはり煌輝は、超エリートアルファの家系に生まれてきた特別な男なのだ。
当たり前、が瑠輝とは違う。
背後でドアの閉まる音がして、皺一つない完璧なベッドメーキングがされた、広々としたベッドの上へ静かに瑠輝は寝かされた。
すぐ様、煌輝がその上へ跨るようにして、のしかかる。
大きく一つ煌輝は深呼吸すると、瑠輝の制服のボタンを手際よく、上から一つずつ外していく。
ドキドキと激しく鼓動は脈打ち、常に更新されていく羞恥心から、煌輝の顔を直視することができなくなってしまう。
一度、砂浜で恥ずかしいことをしているというのに。
服の前が露わになっただけで、瑠輝は酷くドキドキしまう。
そっと瑠輝の手から上着を全て抜き取ると、煌輝も潤んだ瞳でこちらを見下ろしていた。
熱を帯びているのは、瑠輝だけではない。
ぎゅうぎゅうと大腿へ押し充てられた、煌輝の熱からもそれを察する。
――煌輝の、熱くて硬くて⋯⋯大きい。そして、苦しそうだ。
布越しにくっきりと浮かぶ雄々しい熱の証を視界に認めながら、瑠輝はこれから自らに起きるであろうことを想像した。
――やっぱり⋯⋯怖い。
ギュッと無意識の内に、瑠輝は全身を強ばらせる。
「怖い?」
下腹部の熱情とは違い、煌輝は瑠輝の髪を撫でながら、とても穏やかな声色で訊ねた。
ここまで来て、素直に気持ちを吐露して良いものだろうか。
不安を隠しきれない瑠輝は、眉を寄せ、その顔へ表情として浮かべる。
「――優しくするから。⋯⋯って、何だかチープな恋愛ドラマのセリフみたいだな」
ドラマを観たことのない瑠輝には、却ってその台詞がピンと来ない。
しかし、煌輝が瑠輝を安心させるため一生懸命言葉を考え、その後ようやく発した言葉であったことには気がつく。
「こうしてまずは、手を繋げるところから始めよう」
自身の左手をそっと瑠輝の右手へ絡ませ、甘く微笑む煌輝は、いきり勃った下腹部とは、まるで別に存在する生き物のように見えた。
「これが慣れたら、次へ進もう」
煌輝の言葉に、本気でそれを言っているのだろうかとつい瑠輝は疑ってしまう。
「慣れたら、って? もし慣れなかったら、いつまでもこのままで――いいのかよ?」
つい瑠輝は意地悪く聞き返す。布地の下でヒクヒクと蠢く、自身の下腹部に気がつかないフリをしながら。
ともだちにシェアしよう!