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白亜のアーチに絡む真紅の薔薇たち。 この家の主は、庭へ咲く薔薇たちにも我が子同然の強い愛情を注いでいた。愛情を受け育った気高き薔薇は、この家の自慢の二人の息子同様、凛と咲き誇り、その界隈では有名な薔薇屋敷と呼ばれるようになっていた。 だがそれもある日を境に、麗しの高貴な薔薇は無残にも全て刈り取られてしまう。 薔薇は、この家の不幸の象徴であると。 『絶対に二人だけの内緒だよ』 声変わりもまだの、透き通ったボーイソプラノが、薔薇の繁みに隠れ、指切りの合図として目の前へそっと小指を差し出した。 『僕たち、だけの?』 マロン色した大きなアーモンドアイを持つ可愛らしいハスキーボイスは、きょとんとしながら差し出されたその小指を見つめた。 『そう。()()()()ことをしていいのは、大きな薔薇の影でだけ。父様や母様には絶対に内緒だよ。約束できる?』 ボーイソプラノは、マロン色より少し濃い飴色の瞳でじっと見つめると、その桜色した弾力のある唇に、自身の唇を重ねた。 『……!!』 マロン色した瞳が大きく動揺し、頬が深紅の薔薇のように真っ赤に染まっていく。 ボーイソプラノはその様子を目にし、これ以上なく愛おしい存在だと思った。 『ひゃー! 瑠輝、今のなにぃ?』 『今の?』 冷静な顔してボーイソプラノは応えるが、内心、本人も初めての経験に酷く動揺していた。 『今のはね――“キス”、だよ』 『キ、ス?』 アーモンドアイをより大きくさせ、マロン色の瞳を瞬かせながら聞き返す。 『そう。キスは、お互いの気持ちを確かめ合う手段の一つだよ。“好き”の気持ちを、こうして言葉だけじゃなくて行動でも現すことができるんだよ』 『うん、分かった! これから毎日、瑠輝にいっぱいキスする!』 無邪気に告げるその者を、ボーイソプラノは本気で手放したくないと思った。 たとえ将来、お互いに番ができたとしても。 自分を頼り、淡い好意を持つこの可愛いらしいマロン色した瞳を独占し、自分のものだけにしたいのだと。 『僕たちはアルファ同士だから、いずれそれぞれが番を持たなくちゃならなくなる』 『――僕たち、アルファ同士なの?』 『そうだな。代々この家は、アルファしか生まれない家系でもあるし、そもそも父様も母様も立派なアルファだ。まず、ベータが生まれて来ることはないと思う』 目の前のマロン色の瞳がしゅんと大きく肩を落とす。 『瑠輝と僕、番になれないの?』 『アルファ同士だと、番になるのは難しいかな』 目を潤ませ上目遣いにこちらを見つめるマロン色の瞳に、ボーイソプラノはドキッと心が揺らめいた。 困ったな。 いつかこの愛しい者に運命の番が現れ、自分以外の者を愛する時が、必然的に訪れてしまうだなんて。そう考えるだけで、腸が煮えくり返る思いがした。 こんな想いは封印せねばならないものだと、分かっているのに。

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