130 / 139
10-7
これ以上なく、室内には緊張感が漂う。そうした中でも、煌輝はさすがというべきか。物怖じすることなく喋り出す。
「杜撰も何も、俺には瑠輝と……大好きだった人と、またこうして再会できたことは――運命だとしか思えない」
不意に瑠輝は、煌輝のこの言葉で夜の海でのやり取りを思い出していた。
煌輝の“心を乱す相手”――まさかその正体が、幼い頃の自分であったとは。
一体、あの時の誰が思っただろうか。
煌輝の大好きだった“兄”が、他の誰でもない。
オメガである、瑠輝が。
瑠輝が、まさか煌輝の“兄”だったとは……。
――僕、本当は……“星宮”家の双子として。双子の兄、“星宮瑠輝”としてこの世に生まれてきていたのか?
代々、キングローズという超エリートアルファを輩出してきた“星宮家”……の?
だが、結局瑠輝はオメガで。弟である煌輝だけが、アルファで。
とにかく瑠輝は酷く混乱していた。
――ああ。結局、僕だけが捨てられたんだ。代々、アルファしか生まれないとされている星宮家でオメガの僕は汚点にしかならないもんな。
誰にも分からないよう、瑠輝は俯いたまま静かにそっと自嘲する。
それでも、煌輝に対して育ってしまった想いを抑えることはできなかった。
「違反だ。オメガを連行する」
その言葉と同時に、国の職員が“煌輝”という鉄壁を一瞬の隙をつき、いとも簡単に正面突破した。そのままベッド上の瑠輝を捕獲しようと、ズカズカ部屋の中へ侵入して来る。
「瑠輝!!」
煌輝の悲愴な声が耳に届き、自問自答していた瑠輝はようやくその時、これから自分の身へ何が起きようとしているのかを察知した。
しかし既に時は遅し、その細い両腕を強い力で取り押さえられ、身動きが取れない状態となってしまう。
「煌輝! 煌輝! 煌輝!!」
必死で瑠輝は名前を叫ぶも、後から来た別の大柄な国の職員二人組に背後から羽交い締めにされ、動きを封じられていた。
アルファである煌輝も、男性の中では非常に身長も高く、全身も鍛え上げられているというのに。
「母様、一体これはどういうことですか!」
酷く煌輝は取り乱し、男の腕から逃れようと必死で身動ぎながら叫ぶ。
煌輝が“母様”と呼んだ二人と同じ髪色したセミロングの女性は、何も応えず、苦渋に顔を歪め、俯きながら何度も首を振るのみである。
「母様!」
再び煌輝が悲愴を帯びた声で、女性の名を呼ぶ。
女性はそれでも対応を応えず、首を振るのみで何も話そうとはしない。
しかしその唇は、ギュッときつく噛み締め、微かに震えているように見えた。
突然現れたこの女性が、瑠輝を十二年生み、育てた人間とは、到底瑠輝には思えなかった。少なくとも、その様子からは自分がこの人に捨てられた訳ではないのかもしれない。
何故か、瑠輝にはそう思えたのである。
ともだちにシェアしよう!