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国の職員二人に強制連行された瑠輝は、全面にフルスモークがかけられた八人乗りバンの、本来であれば後部座席があるスペースへと乱暴に放り投げられた。
“瑠輝”と悲痛に叫ぶ煌輝の声が、まだ耳の奥へ遺っている。
――煌輝、ゴメン。
最後は抵抗すら見せなかった自身に罪悪感を覚えつつ、心の中で届かぬ謝罪を煌輝へしていた。
だが“母親”だという女性の歯痒そうな口許を見た後では、瑠輝が掴まる以外の選択肢はないのだと察知してしまったのだ。
離れ離れになった理由が、捨てられた以外に何かあるのだと。
「痛 っ!!」
手も脚も手錠のようなもので自由を塞がれていた瑠輝は受け身を取れず、全身を強く打ってしまう。
星宮の双子が離れ離れとなってしまった理由を思いあぐねていた瑠輝は、突然訪れた予期せぬその痛みで思考が遮断される。
「もうちょっと優しく扱えって言うんだよ!」
雑な扱いをした大柄な男たちを、瑠輝はぐっと下から睨んだ。
いつの間にか水城を始めとした国の職員たち全員は、鼻と口許を漆黒のバンダナで覆っている。
発情期を瑠輝が迎えているからだろうか。
――煌輝を押さえ込むほどだから、やはりコイツらはアルファか。
でも、水城はシェルターの職員だから確か、ベータのはずだ。優秀だと言われていても、アルファの人間は採用されない決まりとなっている。
瑠輝がそう逡巡したところで、自身をここまで連行してきた大柄な男たち二人が、突然五〇〇mlほどのスプレー缶をこちらへと向けた。
「な、何?」
無表情で一言も喋ろうとしない男たちに恐怖を覚え、つい瑠輝は怯んでしまう。
「瑠輝が悪いんだよ?」
男たちを掻き分け、瑠輝の前へ水城が姿を現す。
「はぁ? 意味分かんないし」
態度とは裏腹に、瑠輝は精一杯言葉での虚勢を張る。
「由緒正しき星宮家の長男だというのに、言葉遣いが悪く、非常に残念な子へと育ってしまったな」
シルバーフレームの下で、水城の漆黒の瞳が瑠輝を蔑むように見下ろす。
「私が大切に、大切に……極上のオメガとなるよう、星宮の長子を導いたはずなのだが」
水城のその言葉に、瑠輝は眉をひそめる。
まるで以前から、瑠輝が“星宮家”の息子であったことを知っていたかのような物言いだ。
「可愛く私を慕ってくれた頃の瑠輝も可愛いかったが、今の他の男を――極上のアルファを知ってしまった色っぽい瑠輝も悪くはないなぁ」
嬉々とした表情を浮かべた水城はニヤっと口の端を上げると、瑠輝が転がされた隣りへのぼってくる。
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