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――ああ、もう何だか疲れたなあ。 一番初めにオメガのシェルターを作った人、そしてその規則を作った人は、どうしてこんなにも迫害するような仕組みを作ってしまったのだろうか。 もし、自身の身内にオメガが生まれたとしても、もう一生その姿を見ることができなくて良かったのだろうか。 強烈なフェロモンでアルファを誘惑する、下等な性を持つ者であると。 “オメガ”という以前に、その独りひとりのパーソナルな部分は、一切見てもくれなかったのだろうか。 ――僕の実の父、という人も……。 僕と煌輝の父も、優秀な遺伝子にしか目が向かなかったって……そういうことであろう。 記憶など、事実など、こんな想いをするのであれば、全て知らない方が良かったのだ。 「全く、杜撰もいいところだな」 水城にも聞こえないよう、独り瑠輝は小さく呟く。 「――水城先生、僕を……番に、していいですよ」 それから、ニッと瑠輝は泣きながら笑った。 「星宮の血を引くオメガの僕だったら、血統書つきのようなものだもんね。だから、僕の“父”という人は、水城先生の父と契約……したんでしょう? お互いの息子同士を番にさせ、より確実な――エリート遺伝子を持つアルファを生ませるために」 挑むように見上げる瑠輝に、水城はしばしその顔を無表情で眺める。それから怪訝そうに眉を顰め、こう告げた。 「ここ最近の瑠輝にしては、随分物分りがいいな」 シルバーフレームのブリッジを人差し指で押さえるのは、水城の癖なのだろうか。よく見る光景だ。 いつの間にか瑠輝の涙は枯れていた。 瑠輝は些細な水城の動作に、小さく笑う。 「何がおかしい?」 「いえ、何も。ただ、水城先生は眼鏡を押えるのがクセなのかなあと思って」 言い終えたところで、水城は眉間に皺を寄せ罰の悪そうな顔をした。きっと、自分でもそれが癖であることは分かっていたのだろう。 この場面でも浮かんできた笑みに、瑠輝はどのような意味が含まれているのかを知りたくはなかった。 否、知ろうとも思わなかったのだが。 突然、視界が開けたように荒れていた感情が凪ぐ。 「――水城先生、その前に一つお願い聞いてもらってもいいですか?」 「何だ?」 再度、水城がシルバーフレームのブリッジを押さえる。 ふふと瑠輝は笑って、こう言った。 「番になる前に、僕の記憶――全て消してくれませんか?」 水城が瞠目する。 一度枯れたはずの涙が、再び瑠輝の瞳を覆う。 「何もかもを忘れて、今度こそ幸せになりたいんです」 はたりはたりと溢れるそれに構うことなく、瑠輝はそれでも水城に微笑みかけた。

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