3 / 51

003.その恋はただの狂気だった

 思い切ってみて本当によかった。なんでもやってみるものだ、もっと早くこうすればよかった。  モニタの向こうでは窓のない真っ白な個室に私の想い人の姿が映っている。彼をここに連れて来て早三日目。二十四時間朝昼晩と君を眺め続け、六十八時間二十二分七秒が過ぎた。食べたり戻したり、眠ったり魘されて飛び起きたり、君の一挙手一投足を舐めるように眺めているけれど、飽き足りるどころかますます愛しくなるばかり。  ――恋とは、なんて罪深いのだろう。 『もういいだろう!? 早く開けてくれッ!!』  だんだんとヒステリックになっていく君は、捕食される間際の栗鼠みたいに縮こまったまま首だけを伸ばして天井に吠えた。惜しいな、もう少し右を向いてくれたならカメラ目線だったのに。  出してくれとかチクショウとかあれこれ喚いて疲れ切ると、やがて君はまたぼそぼそと誰かの名前を繰り返し口にし始めている。 「早く私に気付いておくれよ……。」  モニタの君を汚さないよう爪先だけで触れながら、私は今日も待っていた。君が私の名を呼んでくれる時を。  そうしたら私は、喜んで君を助けにいくだろう。  そして君は恋人を忘れて、助けに来た私に堕ちるのだ。 「その時が楽しみだよ……。」  君の啜り泣きを眺めながら、心では感涙に咽ぶ君の輝かしい笑顔を描いている。  それは明日なのか、明後日なのか、はたまた来週か来月か。いつになるかはわからないけれど。 「私はいつまでも君を待っているからね。」

ともだちにシェアしよう!