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012.mirror mirror

 埃だらけの屋根裏には、場違いな美しい鏡がある。  そんな噂を聞いた僕が使用人部屋を抜け出すようになってどれくらいの日々が過ぎただろう。 「こんばんは。」  たしかにそこにはやけに磨き抜かれた美しい姿見があった。ただし、覗き込むとそこに映るのは僕じゃなくて。 『また来てくれたんだね。嬉しいよ。』  どこかお館様に似た毛色をした綺麗な男の子だ。 「もっとしょっちゅう来れたらいいんだけど。」 『忙しいのだろう? しかたがないよ。』  代わりに、と手招きをされたら、照れ臭さで僕は彼をまっすぐ見れなくなる。 『さあ。』  冷たい鏡面へと、恐る恐る唇を寄せると、温かさも柔らかさもないけれども君の唇が向こう側で寄り添った。  いつか本当に会えたらいいのに。――すっかり虜にされている僕にとって、彼の正体なんてものはどうだっていいんだ。

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