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022.→一目惚れ→
カンカンカンカン……簡素な踏切に鳴り響く、乾き上がった鐘の音。牛が通ることすらあるど田舎の踏切だ。不恰好なんて今更誰も気にしない。
うだる暑さに文句をぼやきながら、バイクに跨った俺はぼんやりと下りの汽車を眺めていた……のだけれも。
「なにあれ。」
ぽかんと、思わず言葉が漏れていた。無人駅に入るためにスピードを落とし始めた汽車の車窓から、とてもとても綺麗な人影が見えたのだから。
自分でもよくわからないうちに、バイクのハンドルを切っていた。もちろん、駅の方へだ。見間違いじゃなきゃあの人影は網棚から荷物を降ろしてた。きっと降りるんだ。このど田舎に、あの綺麗な男が。
――間に合えば声がかけられるかも。
スピードを上げて全速力。乾いた熱気と土埃がべたべたと顔にへばりつく。遠く駅の構内へと汽車の影が消えていった。間も無く汽笛が響くから、もう下車が始まってるんだろう。ああ、間に合わないかも。待ってくれよ。
「くっそ……!」
間に合ったとしたって、俺にできることなんてせいぜいナンパくらいじゃなかろうか。なんて虚しい。
いや、もういっそ、声だけでも聞ければ十分かもしれない。俺ってこんなに殊勝な性格だったっけ? 馬鹿な。
それでもできることなら。
「間に合えェッ……!!」
こんな衝動的なばっかりの激しい気持ち、俺以外にはきっとわかるものか。
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