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027.ぶっちゃけ今すぐ抱かれたい
男湯ののれんを潜ろうとしたところ、すれ違いざまに新たな客がまた一人。
あ、いい筋肉。そう思ってしまった瞬間、俺はまたもや帰るタイミングを逃してしまった。
こちとら思春期迎える前には男が好きだと気付いたガチ勢だ。普段はそんな素振りを隠しきり、笑顔でクレームを処理するしがない会社勤めとして生きている。ノンケ社会は俺には居心地が悪く、彼氏なんてできた試しもない。
そんな俺にとって、近所の銭湯はいわば楽園だ。だって男のカラダが見れる。普通の男からしたら生でAV女優見たりする感覚だろうか。とにかく、ものすごく興奮する。もちろん面には出さないし、声をかけたりもしないけど。
そんな邪な目的があって入り浸っているせいで、帰りに入れ違いに好みの男が現れるたび二度三度と繰り返し風呂に戻ってしまう悪い癖が俺にはあった。
とはいえ、今日はちょっと……やりすぎ、か、も……
いそいそと再度服を脱いでいた時には、もう違和感は薄々感じていた。でも俺は、はっきりいって、飢えている。もうすぐ魔法使いと揶揄されかねない歳を迎えようかというのに、いつまでたっても俺はオナニー以外の性行為にたどり着けていないのだ!
なんとしてもあと一回、あと一回! 好みの男の肉体美をこの目に焼き付けたい……!! その一心で、またも浴場へと踏み入る俺。
だが既に五回も風呂に浸かり直していた身体はボロボロで。
――ズルンッ!!
急に力が抜けた足は、痛いくらいの速さでタイルの床を滑り抜ける。その瞬間に俺は「あっ」と声を上げていた。なんとも間抜けな一言。
頭を打ち付けるに違いない。理解すると同時に体を固くしたけれど、肌を叩いたのは硬い床ではなく、引き締まった他人の人肌だった。
「大丈夫かっ!?」
「!?」
転んだ俺を受け止めてくれたのはなんと、さっきのれんのところですれ違った好みの美マッチョ!!
それが俺を? 横抱きしている? 顔近い! ちっか!! ちょ、睫毛なげぇな!? 喋った時の吐息がいい匂いすぎて、うっわ、うっわ……!!
こんなハプニングに見舞われたせいで、俺の口からはあまりにも素直な一言が飛び出してしまうのだった。
「だ、抱かれてぇー……」
「……」
ハッ! と我に返った瞬間の俺の気持ちを想像してほしい。抱かれてぇってなんだよ、なんなんだよぉーッ!!
言い訳を考える余地もなく、思わず顔を覆って逃げ出そうとするけれど、俺を捕まえた男の腕は一向に緩まる気配がない。それどころか。
「え、いいの?」
そんな返事を聞いてしまった時には、我が耳を疑わずにいれるわけがなかった。
「へ、……へ!?」
「いや、抱いていいなら抱くけど。うち来るか?」
「いやいや、ハアッ!?」
最初から家デートしようなんてすごい行動力だな!? そこまで的確なツッコミをするほどの余裕はない。色男の迷いない提案に、俺は黙って口をパクパク。
「よかったらこのあとうちに来いよ。フラフラしてるヤツを一人にさせとくのも不安だしな。」
性格もイケメンだったらしい。こんな男が、なんだってよりによってわざわざ俺みたいな男を抱きたがるんだろう? そんな当然の疑問すら抱くタイミングを掴みそこねてしまっていた。
「い……行く……っ!」
年中欲求不満で脳みそピンクだった俺に、それ以外の返事なんてなんにも考えつかないのだから。
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