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029.モノクロ
写真にすればいいと、君は言った。
笑顔も、泣き顔も、あられのない姿も、朝の陽に照らされた光る睫毛も、全てそうすれば残るからと。
――君が先に死ぬ生き物であったことは最初からわかっていた。
だから触れまいとしていたのに、想い出は残せるものだと嘯かれ、愚かな私はそれを信じた。
想い出の檻の中に余生を仕舞えば、孤独など二度と訪れない。そんな妄想にひたり、覚悟を決めてまでいた。
だからこんな最後は考えてもみなかった。
写真は風化し、ネガは歪む。愛しい君の骨には罅が入り、だんだんと砂のように崩れてしまう。
まさか想い出というものが、数世紀と保たないものだったとは。
君はこんな結末を知っていたのだろうか。知らなかったと言ってくれ。私を苦しみの谷底へ突き落としたのは、わざとではないと。
なのにもう君の声も思い出せないのだ。
代わりに、色も形も匂いもなく、ただ空気の針のような視線だけ覚えている。
あの眼差しを向けられた時だけ、この青黒い肌がチリチリと、焦げるように痛むのだ。そう、今も。
かつてたしかに存在していた君は、いまや時の地平線の彼方むこう。
モノクロのようなぎこちなさで、まさか今も私を見つめ続けているのか。
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