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034.俺と金持ちたちのダブル契約結婚
永遠の愛を誓うはずの結婚式。俺と新婦は、十字架に架けられた神様と式を見守る客たちの前で、予定調和の盛大な嘘を吐いた。
「――結婚、おめでとう。」
「嬉しくねえよ。」
式を終えた夜のこと。俺は悪態をつきながらも、差し出されたシャンパンは大事に受け取る。礼儀に則った乾杯だってひとつ。富豪の家に婿入りしても、この貧乏性は治りそうにない。
「これで計画は大成功。僕たち四人は、不滅の友情で結ばれた永遠の共犯者だ。」
三ツ鷹の朗々とした宣言に乾いた笑いだけ返しておく。フランス産のチーズと生ハムを味わう今の俺にはどうでもいいことだ。あーおいしい。
「ねぇ、ちょっとは君は喜んだらどうなの。」
「……実家を助けてくれたことには、これでも感謝してるんだけどなぁ。」
コイツは俺の反応が薄いことに不満げだ。――なんとでも言え。あんな恥ずかしいこと、楽しくもなければ慣れることもきっとない。
噛み合わない俺たちが微妙な空気を漂わせていたところ、隣の部屋から壁が軋むような音がギシっと響いた。
「あん! あっ! そこぉっ……!!」
相変わらずすごい声だな、俺の嫁さん。高級ホテルの分厚い壁はもう少し頑張って仕事しろ。
「彼女はあんなに乗り気なのに、君はいつになったら遊び方を覚えてくれるんだろう。」
「あっ、あんなのと同じになれるかよ……。」
誤解なきよう述べれば、俺は別に寝取られ趣味みたいな性癖があるわけじゃない。嫁さんのお相手だって男じゃない、女だ。そして、もともと、こういう契約だ。
俺の嫁さんと三ツ鷹の嫁さんは恋人同士、そして三ツ鷹もまた男色趣味だ。元武家かつ元華族の落ちぶれ旧家生まれだった俺は、嫁さんちの箔付けと嫁さん本人の性癖をカモフラージュするためだけに選ばれた、ただの木偶の坊。
かつ三ツ鷹にあてがわれたセックスパートナーである。
「楽しむつもりでいたほうが、きっと楽になれるのに。」
そう言ってしなだれかかってくる三ツ鷹の仕草は女性的だが、掘られるのは何故か俺のほう……。せめて逆なら諦めもついたかもしれないものを。
「僕は君をこの上なく気に入っているのに。いつになったら心を開いてくれるのかな?」
拒否する権利もない俺は「来世にでも期待してろよ」とでも文句を言うので精一杯だ。
恋愛には疎いまま剣術一本で生きてきたせいで、『好きになってくれた子が俺のタイプ』なんて漠然とした恋愛観しか持ってなかった。そしてそこにコイツは含まれない。論外すぎる。
なのに隣の部屋で女同士が嬌声上げてる状況下、この男は意味深な手つきで俺のうなじを弄ってくるのである。何度経験しても頭おかしくなりそう。
「今更だがなんで俺みたいなデカブツが好きなんだ、わけわかんねえ。」
「君は動物園で虎や熊を可愛いと思うことはないの?」
それはわかる……、が。かといって自分がそのカテゴリに当てはまるのかは甚だ疑問だ。
「契約って首輪と金って鎖に誠実な君は充分可愛げがあると思うけどね。できれば君からも求めてくれたほうが僕も嬉しい。」
「ああそうかよ……。」
そんな日、いつまで待っても来るもんか。
「……まあいいや。」
諦めたように溜息混じりでそう呟くと、三ツ鷹が細い指で照明のリモコンを弄る。
「とにかく今夜は君の門出にお祝いだ。たくさん、可愛がってあげるね。」
望んでもいないことを耳許で告げられた俺は、やけっぱち同然の手つきでグラスの残りを呷る。そうして間もなく迫り来た薄い唇を、酒臭い息で濡らして受け止めた。
和花言葉BLSSSシリーズ
お題:アイビー/花言葉「永遠の愛」「友情」「不滅」「結婚」「誠実」
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