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049.バニーの日
「変な夢を見たんだ。」
「へえ、どんな夢?」
トーストが乗った皿を席の前に差し出しながら尋ねると、君は神妙な面持ちのまま手を出した。ざくっ。パンの耳を齧る白い歯は、言葉に詰まるようなもそもそした唇に隠されていく。
「お前の夢、だったんだけど。」
あれ? これは喜んでいいところなのかな? 恋人の夢を見ておいてその態度って腑に落ちないじゃない。
「うん」って控えめに相槌を打ちつつ、向かいに座った僕はカフェオレへ手を伸ばす。
「なぜかお前にうさぎの耳が生えてて。」
「……。」
思わず返答に詰まる。いつもより長めにカフェオレを啜って沈黙するしかない。
いや、そりゃ恋人なんだから、僕が君に可愛がられるようなこともままある。あるけど。
成人済みの男にうさみみって、その発想はどうなんだろう?
「それが似合わなくて、目が覚めてから引いたって?」
まあそうなるよね。納得しながら苦笑い。すると口早に「違う違う。」と、まさかの否定が返ってきた。君の気は確かか。
「似合ってたってのもあるんだけどな。」
「う、うん。」
「ほら、お前、耳が弱いだろ?」
「んッ???」
「うさぎの耳は大きいから、『おお、攻め放題だ!』って大喜びして、」
「んっ、ンッ!!」
なんて夢見てるんだい君は。頭だって抱えたくなる。
わざとらしい咳払いで言葉を遮ったのに、君はなおもがっかりと肩を落としながらトーストを齧ってた。
「お預け食らって困ってる。」
そんなの出勤直前に言ってどうすんの馬鹿!!
「……続きは今夜ね。」
と言う以外に僕には返答の術がなかった。なんなのもうー、そんなの早起きしてベッドで言ってよー。
「待てたらご褒美くれるか?」
「考えとく。」
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