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第8話 樹という人
樹は、あっちへふらふら。こっちへふらふら。元々良かったその容姿が少年と青年の間独特に生まれる色香を持ち始めてから、僕の元に留まる時間が減った。
「………。」
まるで野を飛ぶアゲハのように、その美しい見た目で他のすべてを魅せ、色んな花にふらり、ふらり。その美しさに群がる虫にもふらり、ふらり。宿り木を探して渡っていく。
「あ、優月ー!!!」
こうして俺に手を振っている今でも、周りには虫が群がっている。
「お前は、俺のモノだろう?」
だって、お前を育てたのは俺だ。ネグレクトで死にかけていたお前を見つけたのも、そんなお前に毎日食事を渡していたのも、当時お前に足りなかった基礎知識を叩きこんだのも。
(全部、俺だろう?)
だから、お前が宿り続ける木は俺のはずだ。最後に戻ってくる木は。
「あんまり遊んでいたら、嫌いになっちゃうよ。」
だから、
「もっともっと、依存させないと。」
俺なしで生きられなくなるくらい。深い、深いトコロまで。
「溺れておいでよ、樹。」
囁くように吐き出されたその言葉が、誰の耳にも入ることはなかった。
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