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第9話 予兆
「あ、おかえり優月!」
ある日、家に帰ったら兄さんが普通になっていた。
「え...?兄さ...」
おかしい。だって、兄さんはもう狂ってしまった。壊れてしまった。戻るなんて、ありえない。
「あ、お帰りなさい、優月!お兄ちゃんまた勉強頑張ってくれるんだって!」
母がキラキラと目を輝かせてこちらを見てくる。
「よかった。本当によかった。」
父は、目を涙ぐませながらそんなことを言う。
「優月、手を洗っておいで。ご飯にしよう。」
兄さんが、もう見ることの無くなってしまった優しい笑顔と声音で俺に声をかける。
「うん、兄さん...」
気味が悪くて、早くこの場を離れたくて、素直に言葉に従う。
(どうして)
どうして、どうして。どうして、
「なん、で」
戻るわけがない。あるはずがない。でも、でも、あれは、あの顔は、
「兄さん...」
泣きたくなる。
「ん?なあに、優月。」
着いてきていたのか、全く気配に気づけなかったが、背後に兄さんがいた。...鏡に映っているのに、どうして気づかなかったのだろう。
「...なんでも、ないよ。」
少しの違和感を無視して、自室へと戻った。
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