10 / 12
第10話 悪夢のそのまた前の悪夢(1)
食事を終えて再び自室へと戻る。怖い。普通じゃない、あんなもの。あんな、円満な家族の団らんみたいな。
「...気持ち悪い。」
期待したくない。また壊れるのが怖い。こんな、またいつかみたいに、一緒に笑えたら、なんて馬鹿な願いなんて。
「優月」
音もなく入ってきた兄さんが、俺の名前を呼ぶ。
「...兄さん、何のよ..」
問いかけようと口を開けると、視界が反転した。まっすぐ見た先にある景色が、天井へと変わる。
「あ゛っ」
ベッドへと倒れこみ、押さえられた首が軋む。...そうか、首を、押さえつけられたのか。
「ど、して。」
どうして、なんて、分かりきっていた。ああ、やっぱり、兄さんは壊れたままだ。
「あ゛...」
首に置かれた手に力がこもる。
「...あれ、優月、泣いてるの?期待しちゃった?」
無邪気に俺の首を締め上げる兄さんからそう声かけられる。
(泣いてる...?)
確かに、顔が濡れている気がする。
「もとの兄さんに戻ったかもって期待した?お前の大好きな兄さんに。」
俺を嘲りながら兄さんはそう言う。
「あ゛...う゛」
苦しい。息ができない。深く入る指が痛い。
「あいつらも馬鹿だよね。ちょっとニコニコして謝れば戻ったって信じるんだから。しかも、俺がお前にしてきたことを知っていながら、お前に俺と家族をしろだなんて言うんだ。」
全てを嘲って兄さんが言う。
「ね、優月。」
ふっ、と首から手が離される。
「がはっ、げほっごほっ。」
首を締め上げられていた反動で咳き込む。
「できるよね?」
何が、なのかはもう知っていた。
「うん、兄さん...」
バキッ。
「い゛っ」
返事をすると、左頬を殴られた。
「優月、」
冷えた瞳に見据えられる。
「はい、兄さん...」
そう答えると、兄さんが笑顔になる。
「うん。そうだよ優月。イイコ。」
頭を捕まれそこへ持っていかれるのはすぐだった。
ともだちにシェアしよう!