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第2話
俺は何だか苛立ちが溜まって、下唇を強く噛んだ。
「奈留ちゃん顔真っ赤の涙目でキモイんだけど、そんな顔を綺麗にしましょうねー!」
バシャー、と再び水をかけられた。
今度は顔面を重点的にかけているのか、うまく息ができなくて苦しい。
「ガハッゲホッ、ヴォエ…」
ピタリと水が止んだ。俺はいきなり水がこなくなったせいで、酸素が急に喉に入りむせ、思わず床に手をつき呼吸を正そうとした。
「奈留ちゃん今日はいつもよりお金少なくない?この金額じゃゲーセン行ってもすぐに尽きちゃうんですけど」
ふと集団のうちの一人が俺の目の前に財布を持ち出した。
艶のある茶色いシンプルな革の財布は俺のだ。
前々から強要されていることで、昼休み時間に連れ出されると同時に財布を持っていくのが決まりとなっていた。
それに伴って財布の中身は毎回のごとく抜き取れられていて、そろそろ自身のお金が尽きそうなことと、奴らに言われるがままにお金を差し出すのに嫌気がさしていたこともあって、今日に限ってはいつもよりほんの少ないお金しか持ってこなかったのだ。
奴らはそのことに不満を持ったのだろう、僅かに眉を寄せて不服そうな顔をした。
「まぁいいか、明日はちゃんと用意しろよ。できなかったらそれ相応のことをするからな」
奴らは吐き捨てるように言うと、財布からお金だけを取り出して空になった物を俺の方へと投げるとその場から去っていった。
シンと静まり返ったトイレ。残された俺は財布を拾い立ち上がった。そして、先ほど床につけていた己の手を見て、ウンザリとした気持ちになった。
床がもともと砂埃をかぶっていたことと、濡れて付きやすくなったのだろう、手のひらが茶色く汚れていたからだ。
さらにもっと自分の体を見てみると、いつのまにやら薄汚れた箇所が点々とあった。
この状態ではシャワーを浴びて汚れを流したほうがいいという気さえおこるほどだったが、生憎ここは学校である。
俺はとりあえず手のひらの汚れだけは洗い流そうと近くにあったトイレの蛇口を捻った、が手をかけたところはうんともすんともいわず全く動かなかった。
このオンボロトイレ全然ダメじゃねーか。
思わず溜息を吐き、代わりに外の流しで汚れを落とそうと俺はトイレを出た。
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