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第4話
落ち着いた雰囲気を漂わせる我が校の保健室は中年の穏やかそうな女性が先生をやっている。
しかし俺が保健室に入ったときには中には誰もおらず、辺りはシンと静まり返っていた。
俺は目を彷徨わせ、先生が不在ならばと勝手に着られるようなものを持っていこうとした。
そして、数分後。
あらかた部屋の中を探し回ったが、それらしき物はなかった。
無意識のうちに溜息がこぼれる。保健室には服は置いていないのだろうか、ならば他にありそうな場所をあたるしかないなと面倒くささを感じながら思っていたが、
ガララ。
後ろから扉の開く音が聞こえた。俺はすぐさま扉の方へと振り返った。
「あら、誰かいたのねって…、あなた水浸しじゃない⁉」
扉の先、そこには保健室の先生が立っていた。
保健室の先生は俺を見るやいなやビックリした様子で急いで駆け寄り、体の隅々を具合でも確認するかのように順々に見て、それが終わると棚に置いてあったタオルを俺にかぶせた。
一瞬にして視界が白く染まる。俺は頭にかぶさったタオルを手で握り、ゴシゴシと濡れた髪を拭いた。
「あなた最近ここへ来る佐々木君よね。今日は怪我がないようだけど、こんなに濡れちゃって何かあったの?」
俺は返答に困った。ここで本当のことを言うのは、俺が鈴村達にいじめを受けている
のがばれるのと同義になってしまう。
そしてそのことは俺の親の耳にも入るだろう、俺はそれが嫌であった。
「水を止めようとしたら誤って蛇口を逆に捻ってしまい濡れてしまったんです」
「でもだからって、そんなに濡れるかしら…」
彼女は納得いかないというような顔で顎に手をあてた。
咄嗟に思いついた嘘であったが、やはり少し無理があるようだったと、もうちょっとうまい嘘をつくんだったと後悔の念が沸々と沸き上がった。
「嘘みたいな話のようですけど本当なんです。それでお願いがあるんですけど、代わりになるような服ってありますか?」
俺はこれ以上疑いを持たれることを防ごうとまくし立てるように要件を伝えた。
「代わりになるような服ね。隣の部屋に予備用の体操服がしまってあるから、それを持ってくるわ」
彼女はそう言うと部屋から出ていった。
隣の部屋にあったのか、どうりで部屋の中を探し回ってもなかったわけだ。
俺は無駄な体力を使ってしまったと思い、そう意識すればドッと疲れが沸き上がった。
そしてしばらくして彼女が手に体操服を持って部屋に戻ってきた。
「ごめんなさい。あったのがこれしかなくて、あなたの体よりもうんとサイズの大きいものだと思うけど大丈夫かしら」
彼女の手に持たれた体操服は俺の持っている体操服よりもかなりサイズの大きい物だと見て取れた。
着れば絶対ブカブカだと思うが、この状況で四の五の言ってはいられない。
「全然だいじょうぶです」
「そう?着替える場所はベッドのカーテンの裏があるからそこを使ってね」
言うと彼女はシャッと閉めていたカーテンを開いた。
俺は彼女に軽く頭を下げて、手に持っていた体操服を渡されるとカーテンを閉めた。
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