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第5話
何とか着替えてみたものの、やはりサイズが大きすぎる、と手の先まですっぽり体操服に収まった自分の腕をみて思った。
それは下も同様で裾が地面についている。
俺は少しでも動きやすくするように袖口を捲り、裾を何回か折った。
これでよし…、と。
いまだ下着は代えていないので水分を含んだ布が肌にくっついて鬱陶しいが、それを除けばさっきよりはマシになったと思う。
俺は脱いだ制服を持って、シャッとカーテンを開けた。
「着替え終わったのかしら?」
「はい、借りた体操服は明日返しますね」
「そんな早くに返さなくてもいいわよ。あなたは災難を被っただけなのだし、好きな時に返してくれていいわよ」
彼女はニコリと穏やかな顔を見せたが、次の瞬間には打って変わったかのように眉をハの字にして何かを心配するような顔つきになった。
「それに佐々木君はさいきん保健室での用が増えてきているし、無理は禁物よ」
どこか彼女は感づいているのだろうか。確かに最近は鈴村達の暴行によって傷が絶えなく、保健室にお世話になる機会が増えていた。
それを変に思わないわけがないのだ、と薄々わかっていたことだが、こうも口にだして言われてしまうと気まずい。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン…
ちょうど予鈴のチャイムが鳴った。
「チャイムが鳴ったので俺はこれで、失礼しました」
俺はこの場の居た堪れなさをチャイムが鳴ったがなったことを口実にして、そそくさと保健室から出た。
逃げるようにして部屋から出たことによって、さらに訝しがられたことだろう。
今後からは滅多なことじゃない限り、保健室に行くのはやめようと決心し、次の授業のために足を急がせた。
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