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第7話

「ただいま」 「おかえりなさいませ、奈留お坊ちゃま」 ぶじ帰宅を終えて家の玄関を開けると我が家の唯一の執事である直幸が出迎えてくれた。 俺が小さい頃から家で執事として勤務していた直幸はシワのない燕尾服の着用と今も若々しくキリリとしていて、黒く艶のある髪をいつも後ろ一つに束ねてしばっている。 俺は靴を脱ぎ、鞄から濡れた制服と空になった弁当箱を取り出して直幸に手渡した。 「奈留お坊ちゃまこれは?」 直幸は濡れた制服を見て俺に問うてきた。  俺は宮本についた嘘を直幸にも言うことにした。  ここで直幸に正直に話しても親に話されるのは目に見えていたからだ。  俺の両親は父母共にαで兄もαとαの一族だ。  そんな両親はαということもあって社会的にかなり高い地位にいる。  兄も兄でαらしい風貌をまとっていて頭も運動神経も良く、一昨年の春には一流大学の合格をしていた。  対して俺はそんな家族とはパッとしない人間である。  勉強面は日々の努力で多少はできるものの、兄と違って飛びぬけてできるというわけではない。運動面はもっと酷く下手をしたら平均より駄目かもしれない。その他だって自分は特段に秀でているものはない。  幸いαという性を授かったことによってΩやβよりかは立場は上だが、この家族の中にいたっては劣等感を抱かずにはいられない。  そんな俺を両親は冷たい目で見ていた。  そして何かとつけて不出来な俺と兄とを比較してきた。  それもそうだ、兄はαらしく何もかも優れているのだから。幼い頃は兄に負けじと努力はしていたが、結局は何もかも兄の下で終わりになってしまった。  兄は現在、大学に近いマンションを借りていて家を不在にしている。それに伴って兄と比較される機会は減ったが、俺がいじめを受けていることを彼らが知ったらさらに落胆し、冷ややかな目を向けてくるのは間違えない。  俺は両親の冷たい目が嫌だ。兄に劣ってあなたはと兄と比較されるのが嫌だ。だから、親にいじめがバレるのが嫌なのである。 「…かしこまりました。ただいま御夕飯の用意をしておりましたので、この制服を洗濯に入れたあと再度準備に取り掛かります。奈留お坊ちゃまは今しばらくお待ちくださいませ」  直幸は一礼した後に奥のほうへと去っていった。  行った直幸をボウっと見届けたあと、俺は夕飯までの時間を勉強の復習に費やそうと二階の自室へと向かった。

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