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第10話

それからほどなくして辿り着いた先は、現在は使用されていない空き教室だった。 「入れ」  そう言うやいなやドンと強く背中を押される。 「アヴッ…」  いきなりの衝撃で受け身が取れなかった俺は持っていた鞄を落として前に倒れこんでしまった。  思わず床につけてしまった両手がジンジンと痛む。 「奈留ちゃん昨日とたいして変わってないじゃん!」  声の方へと目を動かすと鈴村の取り巻きの一人が俺の鞄から財布を取り出し、中身を確認していた。その中はこいつが言っていた通り昨日とたいして変わらない金額しかなかった。 「奈留ちゃん家ってけっこう金持ってるらしいじゃん。なら羽振り良くもっと金を持ち歩いていても良くねー?」  そう言って取り巻きの男が財布を持ちながら傍へと歩み寄ってしゃがんできた。  次の瞬間、凍てついた双眸で俺を見る。 「お前さー、昨日は見逃してやったからって俺らのこと舐めてんじゃねーぞ」 「…いや、俺親からそんなお金を貰ってないし、アルバイトもしてないからあなた達が思っているほどお金持ってない…です」  俺は凍り付いて鈍る頭で正直なことを話した。 「ならバイトすればいいじゃん」 「勉強が疎かになってしまうので…その、したくないです…」 「はー、つっかえねlなぁ」  男がガシガシと頭を掻く。  明らかに不機嫌な男に戸惑いを感じ、意味もなく視線を彷徨わせると、 「おい」  突然、後ろから鈴村の高圧的な低い声が耳に入った。 「お前って昨日言ったことも忘れるチンパンなのかよ。俺達は忠告したぞ。それを聞き入れなかったお前はもちろん覚悟は出来てんだろ」 「ちがっ…!」  俺は反射的に否定の言葉を言おうとしたが、 「アガッ…!、ヴッ…」  瞬間、横腹から強い衝撃を受けた。  俺の体は吹っ飛び、近くに置いてあった机に頭を強く打ち付けた。  痛い、蹴られた、鈴村に。  先ほどの衝撃で揺れる脳で、起こったことを何とか整理しようとする。  あ、鈴村がこっちに来る…。 「すげー飛びっぷり」 「機嫌がわりぃんだよ。憂さ晴らしさせろ」 「奈留ちゃんと会って気分が良かったんじゃないの?」 「それとこれとは別だ」  ジリジリと鈴村が拳を鳴らして近寄ってくる。  俺は逃げたいと思う一心で体を動かそうとするが、恐怖でうまく体が動けずその場でただただ震えていた。  そして俺との距離から拳を動かせる間合いに入った鈴村は拳を振り上げる。  このままじゃ殴られる…!  咄嗟の危機感で震える体を動かすことが出来た俺は体を横に転がし、拳を避けた。 「ちっ…」  鈴村から舌打ちの音が聞こえる。  俺は何もかもかまってはいられず急いで鞄を拾い上げ、逃げ出そうと扉に向かって走り出した。がしかし、先ほど鈴村に殴られた横腹から激痛が襲い掛かり、思わず足をよろめかせ、転んでしまった。 「はーい、逃げちゃダメねー」 「あがっ…⁉」  そして襟を後ろから引っ張られ、脇の下に腕を差し込まれると体をガチリと固定されてしまった。 「鈴村―、これで奈留ちゃんをサンドバッグにできるよ」  サンドバッグだと…⁉、冗談じゃない!  俺は恐怖と焦りが入り混じった個をどうにかしようと必死で体をジタバタさせた。  だが力強く体を動かしたところで運動が駄目な俺と相手は不良だ。ピクリとも動じない。  段々と鈴村が拳をゴキゴキとならしてこっちに来る。  嫌だ、こっちにくるな…、くるな…、くるな、くるなくるなくるなくるなくるなくるな…!

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