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第12話
何か、何か、いい嘘はないのか…
黙りこくった俺を訝しげに彼女は見つめる。そして口を開かせ、
「災難だったわね」
「へ?」
思わず間抜けな声を出す。
「西高の生徒に暴行を受けたんでしょう?あなたと同じクラスの宮本君がその現場を目撃してここまで運んできてくれたのよ」
…他校の生徒?それに宮本がここまで運んできたってどういうことだ?
意味が分からず、沢山のハテナが頭に浮かぶ。
それを知ってか知らずか保健室の先生はさらに言葉を続け、
「あそこの生徒は喧嘩っ早いと聞くわ。原因は何かは聞かないけど、今後はこうならないよう気を付けてね」
「は、はい気を付けます…」
思わず相づちを打ってしまったが、何の話なのか皆目見当もつかない。
俺を殴ったのは鈴村で他校の生徒は無関係だ。それにここへ運んでくれた宮本のことも気になる。
疑問に疑問が沢山できてしまったが、どうやらこれはいじめがバレずに済んだらしい。
「今日は体が休まるまでベッドで横になっていてもいいわよ」
「いいえ、授業があるので俺でます」
体が痛むとはいえ、授業には極力休みたくない。
俺の断りを聞いた彼女は心配そうな表情を見せたが、特に引き止めることはなく「わかったわ」と口に出した。
「では先生、お世話になりました」
俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、彼女に向って一礼した。
「そうそう、宮本君、あなたの鞄も持ってきてくれたのよ。あそこの机の上に置いてあるから、今持ってくるわね」
彼女は待てというように片手を俺の方へ突き出し、それから鞄を持つと、俺に渡してくれた。
「ありがとうございます。あと、借りた体操服をかえしますね」
俺は受け取った鞄から昨日借りていた体操服を彼女に渡す。
「あら、本当に借りた次の日に返すなんて律義な子ね」
彼女は一瞬驚いた顔をしたものの、ニコリと優しくほほ笑み、俺から体操服を受け取った。
「何かまたあったら、いつでもここに来ていいのよ。先生は困っている生徒の味方だから」
彼女はほほ笑みを崩さず、そう言った。
俺はここで素直にはいと答えたかったが、いじめの件で言葉がつっかえてうまく返事が出来ず、苦笑いで曖昧な言葉しかでてこなかった。そして、それを誤魔化すように痛む体を抑えて、早足で扉の方へと向かい、再度礼を言い彼女から逃げるように、保健室を後にした。
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