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第29話
「鈴村何言ってるんだよ。奈留ならここにいるじゃないか」
暗闇の中、段々と視界が慣れて来た俺は宮本の背中の先に誰かがいるのが目に入った。
俺はさらに目を凝らし、宮本の先にいるのが佐々木だとわかった。
しかし、何か様子が変な気がしやがる…。
「…んんっ、あ、あ、っあう…、やら…、あん…」
「…おまっ、何やってるんだよ!」
佐々木は縄で体を拘束させられていた。だが、俺が驚いたのはそこではない。佐々木が宮本に犯されていたのだ。
佐々木が宮本に犯されている。そう意識すればこの教室に精液のにおいが充満していることに気づいた。
「何って、セックスだけど。鈴村ってそんななりで童貞?」
「ちげーよ!、ていうかお前は、こいつのこと嫌いじゃなかったのかよ」
俺が佐々木をいじめている理由。それは宮本がΩ性を隠してくれる代わりの条件として、佐々木奈留をいじめてくれ、と出してきたからだ。
佐々木は校内でもα至上主義者として有名だった。確かに、世間的にαは上の立場に立っていて、佐々木の考えの奴は少なくはなかったが、佐々木のα贔屓は凄まじかった。
そして、それが原因で佐々木を嫌う奴が多く、宮本もそのうちの一人だと思っていたが。
「ううん、むしろ逆」
「あんっ…、んん…、あう…、…あん」
「逆ってどういう意味だよ…」
佐々木から甲高い喘ぎ声が発せられることを無視して宮本に問う。
「前に奈留が他の奴に話しているのを盗み聞きして聞いたんだ。βは何もしてもβなんだから頑張ったところで無駄な努力だ、って」
「…それがどうしたんだよ」
「俺ね、その時は周りから期待の重圧で心が押しつぶされそうになっていたんだ。たまたま顔が良く生まれて、たまたま運動や勉強が出来て…、俺だって周りと同じβなのに、親は俺をαだと言って、さも俺がαであるかのように接する。学校の奴らだって俺はβだと言っても、謙遜しているだけとか言って俺にαとしての能力を求めてくる…。俺、臆病だからそんな期待を無下には出来なくて、αのような人間として見合うよういっぱい努力してきたんだ。でも、その分すごく疲れてた。そんな時に奈留のその言葉を聞いて、俺が今まで頑張って来た努力は無駄なんだと思った」
「…」
俺は黙って宮本の話を聞いた。
「とても落胆したよ。でも同時に心の中がスッキリとしたんだ。βがどんなに頑張ってもβなら、俺は俺らしくいようって思えた。だから、奈留は俺の救世主のような存在なんだ」
そう言った宮本が愛でるように佐々木の頭を撫でた。
撫でられた佐々木は意識がとんでいるのか、無反応でただただ喘いでいる。
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