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「シャーロットには申し訳ないことをしたと思っている。だが、彼女は私にとって主家の孫娘であると同時に幼馴染みのようなもので、ずっと妹のように思ってきた存在だった。いまさら恋愛対象や結婚相手として見ることができるはずもない。そのことを踏まえて彼女にもきちんと説明したんだが、レナードに一度了承していることを理由に、どうしても納得してもらうことができなかった」
シャーロットは、それほどまでに真剣だったのだろう。祖父の存在を利用してでも、ヴィンセントを自分の許に引き留めたかった。それほど、彼女はヴィンセントを本気で愛し、求めていた。ヴィンセントが仕事を理由にアメリカを離れ、長らく日本に旅立って顧みられることがなくなっても、なお――
「莉音、彼女を説得しきれないまま、私が態度をあやふやにしていたせいで君にもつらい思いをさせてしまった。本当に申し訳ない。どうか許してほしい」
握られていた手にもう一方の手が添えられ、両手でそっと包みこまれる。俯いた莉音の口許が、かすかに戦慄 いた。
「シャーロットが日本にやってきて、こんな強硬手段に出たのは私のせいだ。アパートで片付けをしていたあの日、かかってきた電話口で私は彼女に伝えた。私には生涯をともにしたいと心から願う相手がいるので、君の気持ちに応えることはどうしてもできないと」
深く傷ついた彼女はその場で取り乱し、絶対に信じないと泣き崩れたという。
ずっと想いつづけてきたヴィンセントに、そこまで言わしめるほどの相手ができたという事実は、彼女にとってどうあっても受け容れがたく、許しがたいことだったに違いない。
もし自分が彼女とおなじ立場だったら。そう考えただけで、つらくてどうにかなってしまいそうになる。彼女はそんな耐えがたい苦しみを、実際に味わったのだ。
自分を叩いたときのあの力。
自分も痛かったけれど、彼女はもっと、それ以上にずっと痛かったのではないか。そう思い至って胸が苦しくなった。
『アルフレッドッ!』
ホテルの部屋を出るときに聞いた、血を吐くような悲痛な叫び――
「ぼ、くが、アルフさんを好きになったせいで……」
「莉音、それは違う」
ヴィンセントはすかさず否定した。
「莉音とのことがなくても、私はシャーロットと結婚するつもりはなかった。その事実は揺らがない。それから、先に莉音を好きになったのは私のほうだ」
「アルフさん、が……?」
まさかそんなと驚く莉音に、ヴィンセントは困ったような笑みを浮かべた。
「本当にそうなんだ。私はたぶん、素性の知れない人間を自分の家に連れて帰り、困ったときはお互いさまだと言って親身に世話をしてくれた君に、最初から惹かれてた。身のまわりのことを任せたいといって強引に家に来てもらうようになって、君という人間を知れば知るほど、その想いはますます強くなっていった。だから私は、君がはじめて私を求めてくれたとき、本当に嬉しかった」
莉音の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
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