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Epilogue 第1話(1)

 インターホンが鳴って、莉音は「はぁい!」と返事をしながらパタパタと玄関に向かった。  扉を開けると満面の笑みを浮かべた早瀬が立っていて、その隣には、スラリとした黒髪の美女の姿があった。 「やあ、莉音くん。本日はお招きありがとう」 「こんにちは、早瀬さん。お待ちしてました。それから、えっと……」  美女は、腕に抱いていたものを早瀬に押しつけると、素早く両手をひろげて莉音に抱きついた。 「うわっ」 「リオーン! ハジメマシテッ! ワタシ、早瀬リサ言います。アルフのイモトで、ソイチローの妻ね。とってもとっても会いたかたデェス!」  ガバッと抱きしめられて、熱烈な挨拶を受ける。 「あ、はっ、はじめまして。佐倉莉音です。あの、僕も、お会いしたかったです」  抱擁を解いて莉音の顔に手をやり、自分のほうへ向かせた美女は、しみじみと眺めたあとでふたたび強く莉音を抱きしめた。 「リオン、ソーソーソー・キュ~~~ットッッッ! 超カワイイです! ワタシ、リオン大好きなりました!」 「あ、ありがとうございます」  その勢いにたじたじになりながらも、莉音は笑顔で受け応えた。その背後で、大きな嘆息が漏れる。 「リサ、来て早々に莉音をおまえの毒牙にかけるんじゃない。びっくりしてるじゃないか」 「オウ、アルフ! ドクガ、なんですか? アナタこそそんな顔、ダメね。怖い顔、NGです」  言い返したあとで、美女――ヴィンセントの妹のリサは、莉音に訴えるように言った。 「ワタシ、リオンに会いたい、ずっと言いました。何度も何度も。でもアルフ、NOばっかり。超ケチです」 「ちょ……っ」  言いかけて絶句したヴィンセントは、ふたたび溜息をついた。 「宗一郎、リサに変な言いまわしを教えるんじゃない。ただでさえ怪しい日本語が、ますますおかしくなる」  義兄に不機嫌に注意されて、秘書の立場から今日は身内の顔に戻っている早瀬がクスクスと笑った。 「私じゃありませんよ。最近仲良くなったママ友たちと、積極的に交友関係を深めた努力の証です」 「ママ友?」 「そうです。同世代の子供たちを持つ、お母さんがた同士の付き合いというやつです」  説明する早瀬の腕の中には、先程リサが預けた赤ん坊の姿があった。 「わあ、可愛い。この子がおふたりの息子さんなんですね?」  莉音が覗きこんで声をあげる。 「宗太っていうんだよ。早瀬ライアン宗太。もうすぐ五ヶ月。よろしくね」  赤ん坊は早瀬の腕の中ですやすやと眠っている。ふくふくとした赤いほっぺたに、莉音はふふっと笑いながら指先でそっと触れた。それから我に返ったように顔を上げ、あわてて早瀬夫妻を招き入れた。 「す、すみません。いつまでもこんな玄関で立ち話を。どうぞ中に入ってください」 「ありがとう、お邪魔します」 「オジャマ、シマス」  勝手知ったる様子でふたりは莉音たちとともにリビングに移動する。そして、食卓に並べられた料理の数々を見て、歓声をあげた。 「すごい! これみんな、莉音くんが作ったんですか?」 「ソー・ゴージャス! エクセレント! レストランみたいデス!」 「あの、普通の家庭料理ばかりで、全然、凝ったものとかじゃないんですけど」 「そんなことないですよ。ひとりでこんなに。大変だったでしょう?」  感歎の声をあげる早瀬に、莉音は「いいえ」と笑顔で応えた。  五目ちらしの茶巾寿司からはじまって、酢飯のかわりに茹でた蕎麦を包んだいなり寿司に海苔巻き、コールスローサラダ、生春巻き、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、ひとくちサイズのカボチャコロッケ、ミートパイ、ほうれん草の白和え、鯛とホタテにナッツをまぶし、水菜を添えたカルパッチョ。そして、豆乳とそら豆を使ったビシソワーズ。  テーブルに所狭しと並べられた色とりどりの料理に、早瀬とリサは目を輝かせた。 「社長――アルフから莉音くんの料理の腕前はさんざん聞かされてましたけど、実際こうして目にすると、ほんとにすごいですね。たしかに絶賛するだけのことはある」 「リオン天才。ワタシ、作りカタ知りたいデス」  早瀬夫妻のそれぞれ讃辞に、莉音はありがとうございますと照れ笑いを浮かべた。

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