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第4話 二度目のデート
あくる朝、サトシは、温かくフワフワと満ち足りた気持ちで目覚めた。
しかし、目を開けた次の瞬間、困惑した。
(……ここ、僕の部屋じゃない!)
自分は今、どこで何をしているのか、一瞬混乱してサトシは焦った。しかし、逞 しい腕に抱き込まれ、肌触りの良い高級なシーツに素肌のまま包まれていることに気付き、昨晩のお客様・ユウキと、一晩一緒に過ごしたのだと認識した。
昨夜初めて肌を重ねたばかりの、しかも、お金で自分を買った相手に抱き竦 められて、温かくて気持ち良いと感じてしまい、サトシは戸惑った。それに、自分の身体はさっぱり拭き清められているようだ。……まさか、ユウキが、ホストの自分の身体を拭いてくれたのだろうか?
思わず身じろぎすると、ユウキも目を覚ました。
「ん……、おはよう」
寝乱れた髪に、少し伸びた髭 。気怠 そうな眼差しが、いかにも後朝 の空気を醸し出している。滑らかな肌、逞しい裸の肩や胸を見せているユウキは、大人の男の色気に溢れていた。
昨日の昼、きれいに整えた髪と上品な服装に身を包み、ホテルのラウンジに紳士然として取り澄ましていた顔と、
意識を失うほどの快楽にサトシを解き放った、いやらしい雄 の顔。
対照的なユウキの二つの顔を同時に思い出し、サトシはどぎまぎした。
「お、おはようございます」
何とか挨拶を絞り出したサトシだったが、戸惑いが顔や声に出ていたようで、いたわるように微笑みかけられた。
「ごめんね。結局、泊まりになっちゃった。俺が年甲斐もなく、がっついちゃってさ。サトシ君、疲れて寝落ちしちゃったんだよ。気持ち良さそうに寝てるから、起こすのも可哀想で。お店には、泊りにするって連絡しておいたから」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさい……。あーーーー。僕、ホスト失格です。お客様より先に寝入ってしまうなんて。
……ユウキさん、すごく上手でした。あんなに中イキしたの、初めてです」
サトシは恥ずかしそうに打ち明けた。
「ありがとう。お世辞でも、そんな風に言ってもらえると嬉しいよ。サトシ君が可愛くて、色っぽく反応してくれたから、つい俺も盛 っちゃった」
ユウキも、照れたように微笑んだ。
「お世辞じゃないですよ。昨夜、前と後ろいっぺんにしてもらった時、頭がフワーっと白くなって、そのあとの記憶が無いんで、僕、たぶん気絶しちゃったんですよね。……しかも、僕の身体まで拭いてくださったんですね」
サトシは、ユウキのテクニックと優しさを褒めつつ、軽く言い訳した。
ユウキは片肘をベッドにつき、自分の頭をその上に載せ、楽しそうな顔でサトシを見ていた。
(お客様を差し置いて速攻で寝てしまったのは大失態だけど、ユウキさんは昨日会った時より遥かに元気そうだ。良かった)
「素敵な夜でした。ヒョン、ありがとう」
サトシは、ユウキの頬に小さく音を立てて軽いキスをした。
ユウキは、サトシを腕の中にホールドしたまま、仰向けに寝転がった。サトシはユウキの身体の両側に手をつき、自分の体重を支える格好で、見下ろした。
「サトシ君。こちらこそ、思い出に付き合ってくれてありがとう」
ユウキは、下から優しくサトシの頬を撫でた。その瞳は少し潤んでいるように見えた。
朝食を共にしてから、二人はみなとみらい駅で別れた。
「ユウキさんが、元カレさんをどんなに好きか、すごくよく分かりました。だから『すぐ新しい恋人ができますよ』なんて慰めは、敢えて言いません。
たぶん、ユウキさん、まだ忘れられないですよね? 無理して忘れるとか、今はしない方が良いんじゃないかと思いました。……余計なお世話だったらごめんなさい。
でも、あなたさえその気になれば、きっとまた素敵な恋人ができると思うから。元気出してくださいね」
サトシは、優しくユウキの頬にキスをして、バイバイと手を振って立ち去った。
(良いオトコだったし、エッチもうまくて優しくて、素敵なお客さんだったな)
素直にそう思ったサトシだが、『しょせん一夜限りの客』と、すぐに彼のことは頭から抜け落ちていた。
……ユウキから、二度目のご指名が入るまで。
店長から告げられた。
「こないだ一泊したお客さん、またお前を指名したいってよ」
サトシが待ち合わせ場所に出向くと、そこには照れくさそうに微笑むユウキが居た。
「こないだ、サトシ君と過ごして楽しかったから、また会いたくなっちゃった。こないだは、俺の行きたいところに付き合ってもらったから、今日は、サトシ君の行きたいところに行こう」
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