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第2部・第3話 冬の夜も、あなたと温め合いたい
二人でダイブした新しいベッドで、そっと唇を重ねる。勇樹 のキスは、いつもソフトに始まる。唇の表面の皮を愛撫するように。優しく愛情を伝えてくれる、穏やかでゆったりした彼の性格通りだと、訓志 は思う。悪戯心を出して、小さく音を立てて少し強く彼の下唇に吸い付くと、勇樹の呼吸が少し早くなる。
「……訓志、俺を煽るの、うまいよね」
甘い声で囁き、舌を絡めてきた。訓志は澄ました顔で、しかし熱心に応える。勇樹がキスに夢中になっている間に、気付かれないように、少しずつ彼のシャツのボタンを外す。ふっとキスが途切れて目線が絡んだ瞬間、細い指先で彼の引き締まった体躯に線を引くように撫で上げる。
「んっ……、はあっ……。いつの間に、ボタン外したの」
快感に眉をひそめる勇樹の姿は、同性から見てもセクシーで、野生動物のような美を秘めている。
「キスが終わるまで待ち切れなかったんだもん」
「えっ……? そんなに、いやらしいことしたかったの?」
おもむろに訓志のセーターの裾に手を掛けた勇樹の瞳は、欲情で妖しい光を放ち始めている。訓志は、より大胆に、勇樹の胸やお腹を撫で回す。
「はぁ……。訓志、気持ち良いよ……」
感じ始めている勇樹の手元は既に動きが鈍い。訓志はほくそ笑み、勇樹のベルトに手を掛けた。すると勇樹は、服を脱がせず下から手を捻じ込んで、胸の頂を、優しくつねるように愛撫する。同時に優しく耳にも口付ける。
「あんっ……」
より深く快感を味わおうと、訓志が一瞬瞼を閉じると、横向きだった身体を仰向けに転がされ、勇樹に組み敷かれた。彼は訓志のセーターをめくり上げて、少し色づき始め、硬くその身を竦め始めた突起にそっと口付ける。
「んんっ……」
胸に与えられた快感と、はばかることなく好きな人と愛し合える歓びで、訓志は昂った。腰のあたりに熱が集まり始めている。感じやすい場所に優しく触れられると、勇樹の愛を感じて嬉しいし、気持ち良いけれど、もっと強くして欲しくて、もどかしくもある。小さく喘ぎ声をあげながら、勇樹のシャツを脱がせようと背中側へ引っ張ると、彼は自分で腕を背中に回し、袖を引き抜いた。すかさず、訓志も自分のセーターを脱ぎ捨てる。勇樹の胸の突起を指ではじき、摘まんで刺激を与える。
こぼれ落ちる二人の吐息は艶めかしい。情熱的に唇を重ねながら、二人はもどかしげにベルトを外し、しきりに脚を動かしながら、それぞれ自分のズボンを脱ぎ捨てる。そして、ベッドの下に蹴り落としてしまう。
勇樹の下着に手を掛けながら、訓志が脚側にずり下がろうとすると、勇樹も同じように脚側に移動しようとする。どちらが先に相手を愛撫するか。ちょっとした主導権争いになった。
「俺に先にさせてよ」
「えぇーっ! こないだもそうだったじゃん。今日は僕からじゃない?」
真顔で何度か押し問答した後に、訓志は、ハッと目を丸くする。
「……そうだ! 僕、良いこと思い付いた!」
「たぶん、俺も今、訓志と同じこと考えてると思う」
勇樹はニヤリと笑い、再び横向きに訓志を転がして、自分の身体の向きを、反対にーー頭を脚側にーー変えた。
「……こういうことだよね?」
いわゆるシックスナインの体勢で、互いに愛し合う形になった。訓志は返事をする暇すら惜しんで、勇樹自身を頬張る。一瞬出遅れた勇樹は、甘い呻き声をあげながら、訓志の下着を剥ぎ取る。
「ずるいよ、訓志……。ただでさえうまいのに。スタートダッシュされたら、俺、すぐ限界が来ちゃう……」
巧みに与えられる快感に喘ぎながらも、勇樹も、訓志の感じやすい裏筋に舌を這わせる。ひと回りの年齢差から、三十代半ばの勇樹のほうが達しにくいはずだが、百戦錬磨の訓志にかかれば、うぶな童貞のようにあっという間にのぼりつめる。訓志は『先手を取った』と思ったが、知恵を使った勇樹の逆襲に遭った。
「ふぁ……っ! えっ? ああ……んっ……!」
前は、舌や唇に。後ろは、指に。二重の快感に翻弄され、訓志は裏返った声をあげた。夜の営みを予想して、密かに備えていた訓志の蕾は柔らかく、すぐにはくはくと震えて口を開け始める。中に甘い蜜を秘めた花びらが開いて蜂を誘うように、勇樹を内へと誘いこむかのようだ。それを察した勇樹は、雄茎の付け根から会陰へと舌を這わせる。内と外から同時に良いところを愛撫され、訓志はあられもない声をあげてしまう。
「ああ……ん、ゃあああ……っ……」
身体が熱い。色んな液体が混じり合った、ねちねちとした卑猥な水音が耳を刺激する。わなわなと内腿が震え、まるで勇樹の指を絡めとるように内壁は複雑な動きで締め付ける。
「ねぇ、勇樹……」
鼻にかかった震える声で甘えてねだると、満足げに勇樹は頷く。
「新居で初めてだから、訓志が感じてるとこ、ちゃんと見たい」
荒い吐息交じりの勇樹の言葉に、照れたように軽く頬を染め、プイとそっぽを向く。照れ隠しに、わざと可愛くない台詞を口にする。
「……初めてじゃなくても、見たがるくせに」
「ああ、そうだよ。だって、好きな人が自分と抱き合って感じてくれてるなんて、すごい嬉しいし、エロくて興奮する」
再び上からのしかかる勇樹の熱っぽい眼差しに射すくめられる。ゆっくりと勇樹自身が入ってくる。彼がひどく興奮しているのは、舌舐めずりのようにペロリと舌で唇を舐める仕草と、その昂りの熱さで分かった。何だか気恥ずかしくなり、訓志は顔をそむけ、唇を噛み締める。
「ねぇ、訓志。俺を見てよ。それに、いくら喘いでも良いんだぜ? 誰にも聞こえないんだから」
「……恥ずかしいよ。声だって、勇樹が聞いてるじゃん」
心が無防備になるほど、訓志が恥じらうことを、勇樹は知っている。しかし、文字通り男娼だった訓志がおぼこく恥ずかしがるところが、それを愛情をこめてからかうのが、勇樹は好きなのだ。
「お互い全部さらけ出した仲じゃん……。水臭いなぁ」
訓志は、勇樹の唇に噛み付くようにキスしながら、自ら勇樹を迎え入れるように腰を浮かせる。
「あっ……、ん……。訓志、そう急かすなよ」
完全に根元まで入り切ると、二人は見つめ合い、額を合わせた。
「……訓志。愛してる」
「僕も。愛してるよ、勇樹」
悩まし気な溜め息をこぼし、待ち切れないとばかりに身体をくねらせる訓志の姿に、クスリと微笑んだ勇樹は、浅く小刻みに抽送し始めた。
「あぁ……。気持ち良い……」
「うん……」
切ないような快感が背骨を駆けあがり、訓志はゾクゾクと震える。まるで熱に浮かされたように、頭がぼうっとする。二人の肌はしっとりと汗に濡れ、互いの肌を離すまいと言わんばかりに張り付く。
熱い、なのに寒い。一度最奥まで一体になったのに、その後、勇樹は腰を手前に引いてしまった。奥が疼き、勇樹を求めている。
このままでは、達けない。
「ねぇ、勇樹……。もっとして……?」
今にも泣きだしそうに眉を下げた情けない表情で、訓志は囁くような小声で懇願した。勇樹は、ふっと息をつき、両肩を掴んで訓志の身体を抱き起こす。すらりとした長い脚を勇樹の引き締まった腰に巻き付け、潤んだ瞳で、訓志は切なげに勇樹に口付ける。
勇樹は、その細い腰を優しく撫で、しっかりと掴み、揺すぶる。つられるように訓志は自ら腰を振り始める。本当に勇樹を好きになってからは、訓志は恥ずかしがって、最初からは大胆な体位ーー騎乗位や対面座位ーーをしたがらない。しかし、いったん身体が蕩け始めると、理性のタガが緩み、本能で快感を追求して大胆になる。それを知っているから、勇樹は、訓志を乱れさせようと煽り立ててくるのだ。
切なげに眉をひそめる表情や、夜目にも紅く染まる白い肌の艶めかしさに、勇樹は憧れをこめた、うっとりした眼差しで訓志を見つめた。
「訓志……。すごく色っぽいよ、素敵だ……」
「だって、勇樹が焦らすんだもん……。ふっ、はあぁっ……。やだ、すごく良い……。いきそう……」
「うっ、んっ……。俺も。ヤバい」
訓志の中で、勇樹の剛直は、ぴくぴくと動き、ひときわ嵩を増す。彼の絶頂が近そうなことを、薄れそうになる理性の中で辛うじて感じ取った次の瞬間、勇樹の手が、訓志の中心を包み込んだ。ダメ押しのように前をも扱かれ、訓志は身体を震わせて欲望を吐き出す。その瞬間の締め付けに、勇樹も呻きながら熱情を迸らせた。
全く違う世界に住む二人が出会い、身体の関係から始まり、戸惑いながらも互いに真剣な恋に落ちた。勇樹も訓志も、なかなか素直に気持ちを打ち明けられなかったので、本当の意味で恋人同士になってから、まだ日が浅い二人だ。それでも、この人が運命の相手だと、強く惹かれ合い、短い交際期間をものともせずに間もなくゴールインしようとしている。
この夜、あまりに夢中で愛し合うあまり、二人は寝室の窓を閉め忘れた。しかし、健気なカップルに幸運の女神は微笑んだ。いつもなら冷たいはずの冬の北カリフォルニアの空気は、この夜だけは暖かく二人を包んだ。
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