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第2部・第15話 抱き締めたい (2/2)

「良いよ、奥まで来て。もう大丈夫」  訓志(さとし)は軽く頷いて、そっと勇樹(ゆうき)の中へと腰を推し進める。根元まで埋めると、いったんそこでとどまり、彼の内壁が訓志の形を覚え、受け入れるのを待つ。 「動かすね」  彼が頷くのを確認し、手前に少し引き抜いて、浅いところをゆるゆると前後する。 「ああ……」  吐息交じりの艶めかしい喘ぎ声を漏らし、訓志の腰やお尻を撫でる指先はしっとりしている。 (この人、ホント感じやすいし、反応が色っぽいんだよなぁ。ネコとして可愛がられたのも納得。こっち側の経験が豊富で気持ちが分かるから、タチに回っても上手いんだろうなぁ)  まるで訓志の胸中を読んだかのように、勇樹が同じことを言い出す。 「訓志、タチもすごく上手だよね……。ネコ側の気持ちが分かるからかなぁ」 「僕は元々、タチのほうが長かったもん。勇樹こそ、ネコの才能あると思うよ? 反応が良いから、抱いてると興奮する。乱れ方も、しっとりした大人の色気が溢れてて」 「……なんだよ、それ……」  熱い昂りで、勇樹の良いところを何度もゆっくり擦り上げる。次第に奥深くまで内壁を穿つと、今にも蕩けそうな表情で、勇樹は訓志を誘惑する。 「ねえ、訓志。体位変えて良い? このままだと俺、すぐいっちゃうから」 「もういってくれても良いけど?」 「……意地悪しないでくれよ」  悩まし気な吐息をつき、眉をひそめ、かぶりを振る勇樹の首筋や胸元には汗が浮いている。 「ふふ、ごめん。勇樹が感じてるところ、すごく色っぽいからさ、ちょっと苛めたくなっちゃうんだ。次はどうしたいの?」 「……バック」  拗ねたような言い方で素直に欲求を口にする勇樹が可愛くて、訓志は頬をほころばせる。いったん彼の中から抜け出ると、勇樹は自分で身体を起こし、膝立ちのままヘッドボードを掴んで、大きく脚を開く。訓志も膝立ちで身体を寄せ、彼の腰に手を当てる。左右に双丘を押し開き、訓志自身を宛がった。勇樹が息を吐くタイミングに合わせ、後孔に優しく押し込んだ。 「んっ……」  少し鼻に掛かった勇樹の呻き声は快楽を訴えている。訓志は、そっと右手を勇樹の前に回し、兆し切っていない中心を上下に撫でながら、腰を前後に律動させる。 「あ、あっ……、んっ、あんっ」  勇樹の肌は熱く火照(ほて)り、汗で濡れて光っている。声も一段切なさを増した。突き上げるように強く深く何度か楔を打ち込むと、訓志の手の中で勇樹は()ぜ、内壁は不規則に脈動して訓志を締め付けた。 「勇樹、気持ち良い? ねぇ、僕もいっていい……?」  荒い呼吸の中、甘い声で囁きながら、彼の顎を捉えて振り向かせ、口付ける。快楽に歪む表情で懸命に頷く勇樹の姿を確かめ、訓志も自らの欲望を迸らせた。  彼自身が射精した後もなお、後ろで感じ続けているのは分かった。三十代も半ばに差し掛かった勇樹は「一度いったら満足」と、いつも言うのだが。 (後ろで、ドライなら、まだいけるんじゃ……?)  コンドームを抜き取り、自分と勇樹の身体をタオルでさっと拭く。彼はうっとりした表情で、しどけなく横たわっている。壮絶な色気に、訓志はゴクリと固唾を呑んだ。再び分身は漲り始めている。何度か自分の手で上下に扱いてみた。  甘い声で耳元に囁きかける。 「ねぇ、もう一回して良い? 勇樹があんまり色っぽいから、僕、また勃っちゃった」 「……しょうがないなぁ。良いよ、おいで。でも、俺、もういけないと思う」  気怠さを漂わせ、勇樹は軽く苦笑いして、うつ伏せた。  彼の身体は、惚れ惚れするほど美しい。手足が長く長身だから、服を着ている時はそれほど目立たないが、逆三角形の上半身、引き締まった腰、硬すぎない尻。筋のきれいに浮き出た脚。  感嘆の溜め息をつきながら、訓志は、その背中から腰へと、指先で撫で下ろす。官能の余韻で、勇樹も甘い吐息をつきながら背中をのけぞらせる。  背後から、すぼまりに触れると、一度押し広げられた後だけに、まだ柔らかい。ひくついて、訓志を誘うようだ。優しく指で広げ、「もう一度入れてね」と挨拶するように、二本の指を差し入れ、内壁に訓志の存在を認識してもらう。  脚を閉じさせ、隙間から捩じ込むように挿入した。ぬるりと、スムーズに入っていくが、狭くて締め付けられる感じがする。 「う、んっ……。は、あぁっ……」  それが気持ち良いのだろう。再び勇樹はよがり出し、切なげな声を上げ始めた。体重を彼に掛けないように気をつけながら、背中から肌を密着させる。お互いの汗で肌が張り付いたり、そうかと思ったら滑ったり。腰を振りながら抱き締められないのはもどかしい。  熱い内壁は、容赦なく訓志を締め付ける。訓志は呻き、腰の奥に湧き上がる快感をどうにか(なだ)めつける。 「もう少し力抜いて? そんなに締め付けられたら、僕、いきそう。勇樹をちゃんといかせてあげたいんだ」  荒げた呼吸の中で耳元に囁き掛けると、勇樹は駄々をこねるように首を左右に振る。 「ねぇ、勇樹。お願い」  甘い声でおねだりし、耳朶(みみたぶ)を食むように口付けると、勇樹は大きく息をつき体の力を緩めた。 「ありがと。じゃ、いっぱい勇樹の気持ち良いところ、してあげるね」  角度や抜き差しの長さを変えながら、反応を窺う。思うように自分で動けず、もどかしいのか、彼はシーツを強く握りしめて震えている。次第に、喘ぎ声のトーンが高くなる。抽送のスピードをあげると、彼はタガが外れたようにあられもない声をあげて乱れ、絶頂に達した。訓志は、なおも勇樹を攻め立て続ける。絶頂感の高波は、まだ続いてやまない。彼の唇は、もはや言葉を紡いでいない。あまりに息絶え絶えなので、過呼吸を起こしやしないかと不安になり、いったん腰の動きを止め、彼の肩をさする。勇樹は何度か息をつくと、切なげに眉をひそめて訴えた。 「もうダメだ……。さっきから、何も出てないのに、いきっぱなしなんだ。こんなの初めてだから、怖い」 「ドライで、そんなに気持ち良くなってくれたんだ……。嬉しい。僕も勇樹の中でいきたい。もうちょっとだけ付き合って。顔見ながらしたいな」  彼は素直に寝返りを打ち、仰向けになる。優しくするつもりだったが、連続ドライオーガズムに入っていた勇樹の身体の熱は、撫でるように触れるだけでは収まらなかった。 「ねぇ、訓志、もっと……」  切なげに潤んだ瞳で、少し掠れたセクシーな囁き声にねだられて、訓志は強く腰を打ち付けた。

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