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第2部・第18話 ピンチヒッター
学園祭当日は、音響や照明などのステージ周り全体を統括する先生のアシスタントをすることになった。訓志 本人が出演するわけではないが、演出やダンス指導を熱心にしていたことを知っている勇樹 や、ディックやフード・ドライブのボランティア仲間数人がステージを観に来てくれた。訓志は、自分のために来てくれたゲストに挨拶をして、早々に裏に回る。
「サトシはルックスが良すぎるから、人前に出ちゃダメ。当日はステージ裏のポジションね。主役は生徒なのに、主役がかすんじゃうから」
女性の先生たちにからかわれながら決められたポジションだった。
インカムでスタッフ同士連絡を取り、そろそろ幕を開けようという時。
K-POPの振り付けを教えた男子グループの子が二人、泣きそうな顔で訓志の袖を引っ張っている。
「さっき、センター役が転んで脚を痛めた。ダンスどころか、歩けなくなっちゃったんだ」
「……ええっ! ……じゃ、フォーメーションは歯抜けになっちゃうけど、残りのメンバーでやるしかない……かな……」
訓志の声が尻すぼみになり、二人も憤然とした表情を浮かべた。
「サトシも分かってるでしょ? センター不在で、できるわけないよ!」
「じゃあ、他の人がセンターに立って、他のポジションを空ける……とか」
おずおずと口に出すと、ますます二人は鼻の穴を膨らませている。
「急に持ち場を変えるなんて、そんな器用なこと、僕ら無理だよ。サトシが一番分かってるよね? ……ピンチヒッターとして、サトシに踊って欲しいんだ。僕ら、こんなに練習したから、やっぱりステージには出たい」
訓志は彼らの気迫に気圧され、唇を噛んで、上司である先生の姿を目で探す。
「ジャネットには、さっき了解もらったよ。本来はダメだけど、今回は怪我した生徒の代わりだから、特例として認めるって」
さすがグループのブレーンだ。訓志が気にしそうなことを先回りして、外堀を埋めてきた。
「そこまで考えたんだね。分かった、やるよ。でも僕、スタッフとしての仕事もあるからさ。そっちを抜けて良いか相談してくるから、少し待ってて。後で楽屋に行くから」
訓志が微笑みかけると、彼らはホッとした表情を浮かべ、仲間たちに良い報告をしようと軽やかな足取りで走っていった。
ステージ統括の先生は、忙しなくインカムで指示を飛ばしている。しかし、訓志の顔を見た瞬間、彼はインカムを切り、早口でまくし立てた。
「ジャネットから話は聞いた。こっちは何とかなるから、助けに行ってやってくれ」
「ありがとうございます」
手短にお礼を言うと、気にするなと言わんばかりに彼はニヤリと笑い、訓志の肩をポンポンと叩いた。
「プロのダンス、楽しみにしてるよ」
訓志が急いで楽屋に駆けつけると、不安げだった生徒たちが、一斉に安堵の表情を浮かべた。怪我した生徒は、家族と連絡が取れ、病院に連れて行ってもらったそうだ。
「サトシ、これ。ちょっとサイズ違うけど」
差し出されたユニフォームに着替え、テキパキと柔軟とアップを始めた。今日は、何かの時に使うかもしれないと、踊れる靴で来ていて良かった。
にわかに別人のように目の色が変わった訓志を、周りの生徒たちが驚きの表情で見る。
「ピンチヒッターだけど、僕、真剣にやるからね。絶対、良いステージにしよう」
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