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第2部・第20話 僕の夢 (1/2)

 ある日のクラスの後、ひどく申し訳なさそうにジャネットから打ち明けられた。 「サトシ。あなたに謝らなければいけないことがあるの。あなたの許しを得ず、ダンス動画を観たという芸能事務所に、あなたの連絡先を伝えてしまいました。本来なら、あなたの許可が必要なのに。電話を取った職員が、以前からあなたのファンで、スカウトに違いないって舞い上がって、つい言ってしまったそうです。本当にごめんなさい」 「へっ……? 芸能事務所? 僕に興味があるってことですか?」  鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべている訓志(さとし)に、ジャネットは苦笑した。 「あなた、数年前は日本でデビュー目指して練習生してたんでしょ? すごいチャンスかもしれないのに。やけに落ち着いてて、まるで他人事みたいね」  確かにそうだ。自分はかつて、アイドルになりたくて、無我夢中で練習に打ち込んだこともあった。 (じゃあ、今の僕の夢は……? 大切にしたいものは……?)  訓志は改めて、自分自身に問うた。  日本の芸能事務所で練習生だった頃のこと、  出張ホストをしていた頃のこと、  勇樹(ゆうき)との恋人時代、そしてアメリカでの新婚生活。  それぞれの時代に、訓志の傍にいた大切な友達や仲間。走馬灯のように、大切な思い出が蘇り、胸が詰まる。  感慨にふける訓志のスマホが鳴った。知らない番号からだ。 「……もしもし」 「サトシ・キノシタさんですか? こちら、XXエンターテインメントです。先日、〇〇コミュニティ・カレッジの学園祭で、うちのタレントのダンスを踊られていましたよね? 素晴らしいパフォーマンスでした。ぜひ一度お会いして、あなたをタレントとしてプロデュースさせていただけないか、可能性についてお話したいのですが」 「そうですか。では、僕の自宅にお越しになりませんか?」  訓志の提案に、電話の向こうの男性は、少し戸惑うような反応を見せた。 「……えっ、いきなりご自宅に伺っても良いんですか?」 「ええ、構いませんよ。きっと、僕がどこに住んでるかも、同性パートナーと結婚していることも、もうご存じでしょうから。お話は、パートナー同席の上でお聞きします」  日本の芸能界ではよくあることだ。きっとアメリカでも同じだろうとハッタリをかましただけだったが、どうやら図星をついたようだ。電話相手は息をひゅっと呑んでいた。  その二日後、土曜日の午後に、彼らはやって来た。 「初めまして」  やって来た芸能事務所の男性が、うやうやしく最初に名刺を差し出した相手は、訓志だった。 「……あ、初めまして。サトシです。あの、僕は名刺とか持ってなくて……」  もごもごと返事をする訓志を、彼は、目を細めて優しく見つめる。 「どうぞ、お気になさらず」  男性二人、女性一人、計三人から名刺をもらい、彼らに座ってもらった。キッチンに行こうとする訓志を、勇樹(ゆうき)が押し止める。 「飲み物は俺が持って来るから」 (そっか。この人たちが話したいのは、僕だった。この家に来る人は、勇樹を見ていることが多いから。なんか慣れないなぁ、こういうの)  何とも落ち着かない気持ちで座っていると、勇樹がレモネードを持ってきてくれた。 「今日は少し暑いですし。これ、うちで採れたレモンで、訓志が作ったんですよ」 「ほぉ……。良いですなぁ」  来客は感心した表情で訓志を見た。  全員が訓志のお手製レモネードで喉を潤した後、最初に挨拶した男性が、居ずまいを正し、おもむろに切り出した。 「……では、単刀直入にお話しましょう。サトシ、私たちの会社からデビューする気はありませんか?」

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