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【番外編・後日談】夏の楽しみ

 永住権も申請して、新婚生活真っ只中の勇樹(ゆうき)訓志(さとし)は、新型コロナの影響で、一日中、カリフォルニアの新居で一緒に過ごしている。相変わらず仲睦まじくアツアツだ。  勇樹の仕事は、ほぼ在宅勤務になった。訓志はコミュニティカレッジでティーチングアシスタントの仕事を得たが、学校閉鎖中はビデオで遠隔レッスンしている。合間には動画配信サイト用の映像も撮るので、毎日のように自宅で張り切って歌って踊っている。  二人の仲は相変わらず順調……ではあるのだが、最近、勇樹には小さな悩みができた。  早く仕事を片付け終わり、数少ない近所の営業中のジムにトレーニングしに行こうと支度する勇樹の姿を目ざとく認め、訓志が猫撫で声で近寄ってくる。 「勇樹〜、ジムに行くの?」 「……うん」 「帰りに、ジムの隣のお店で、ポプシクル買って来てくれる?」  小首を傾げ、上目遣いで甘えた表情を浮かべた訓志のおねだりに、勇樹はめっぽう弱い。 「……分かったよ。どの味が良いの?」 「定番は一通り食べたから、今月のフレーバーが良いな。もし今月のがミントだったら、ストロベリー。僕、ミントだけは苦手なんだ」 「了解。じゃ、行ってくる」 「行ってらっしゃい」  軽く訓志とキスを交わして家を出た勇樹は、大きな溜め息をついた。  ポプシクルとは、いわゆる棒付きのアイスキャンディーだ。どんなスーパーにも売っている、アメリカでも人気のお菓子で、一ダース入って一箱数ドルの手頃なものがたくさんある。  二人の住む北カリフォルニアは、夏でも湿度はあがらないうえ、夜は涼しい。殆どの家にはクーラーすらないほどだ。だから、夏バテとは無縁かと思いきや、訓志は、極端に夏が苦手だった。そんな彼を気の毒に思い、勇樹が甘くて冷たいポプシクルを買い与えたのがきっかけだった。訓志のお気に入りのポプシクルは、フレッシュなフルーツを使った、専門店のもの。値段も一個で数ドルと、決して安くはない。  今、勇樹は、訓志にその存在を教えたことを軽く後悔している。  問題は、値段ではない。数ドルの高級ポプシクルを月に数回買ってあげることくらい、訓志を喜ばせるためなら、お安い御用だ。 (そう、問題は……) 「ただいまー」 「お帰りなさい、勇樹」  帰宅時に玄関まで出迎えてくれるのは、一緒に住み始めて以来の習慣だ。しかし今日は一段と目が輝いている。もし訓志に尻尾があれば、喜びにブンブン揺れていただろう。 「……お待ちかねのポプシクルだよ。今月のフレーバーはマンゴーだった。ストロベリーも買って来たから、明日も食べれるよ」 「うわぁ、二本も買って来てくれたの? ありがとう勇樹!」  弾む声でお礼を言うと、勇樹の頬に音を立ててキスをして、訓志は鼻歌を歌いながら冷蔵庫に向かう。 「んっ、はあぁ……。美味しい……」  訓志は恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべ、赤い可愛らしい舌をチロチロと覗かせてアイスキャンディーを舐めている。時折、口の中に含みながら、モゴモゴと舌を中で蠢かせたり、吸ったり、軽く噛んだり……。遂に、口の端から溢れた汁が、顎を伝って滴り落ちる。  ……ゴクリ。  訓志の横顔を眺めていた勇樹の喉が鳴った。 「どうしたの? あー、勇樹も一口欲しい?」  凝視していたことに気付かれ、勇樹は慌てた。 「あぁ、美味しそうに食べてるなぁって。俺は甘いものそんなに好きじゃないから、良いよ。訓志、全部食べなよ」  目を逸らし、手を洗うふりでバスルームに向かう。 (あれはヤバい……。エロ過ぎるだろ……!)  熱い顔を冷やそうと、勇樹は勢い良く冷水で顔を洗った。  訓志がアイスキャンディーを食べるたび、このエロティックな光景が繰り返され、勇樹はいたたまれなくなる。何度見ても、いやらしい想像をしてムラムラするのは、さすがにおかしいのではないか。これが密かな勇樹の悩みだった。  昼間悶々としたので、ヘタに触ると訓志にご無体してしまいそうだ。勇樹はサッサと一人入浴し、ベッドで背中を向けて狸寝入りを決め込んだ。しかし、訓志は、そんな勇樹の気持ちに気付いていないのか、猫のようにしなやかな足取りでベッドに潜り込むと、身体を擦り付けてくる。 「ねぇ、勇樹……。もう寝ちゃうの? 僕、ちょっとイチャイチャしたい」  勇樹の耳や首筋に、訓志の柔らかい唇が触れ、優しい吐息でくすぐられる。我慢しきれなくなった勇樹は、ガバッ! と振り向いた。そのまま、訓志の両手を掴んでシーツに縫い付け、激しく唇を奪う。 「……ちょっとで良いの? どんなことがしたいの?」  荒い呼吸の中で囁くと、既に瞳を潤ませた訓志は、甘い声で答えた。 「勇樹のポプシクルちょうだい」  ウグッ。 「……じゃあ、訓志が硬くしてくれる?」  思わず鼻の下を伸ばしそうになりながら、勇樹は必死に平静を取り繕う。訓志は素直に頷き、勇樹の部屋着と下着をずり下す。 「ふふ、もう半勃ちしてるよ?」  さっきの台詞と昼の妄想で、既に勇樹には火が付き始めている。悪戯っぽい含み笑いをしながら、訓志は、ゆっくり勇樹自身を根元から舐め始める。 「……もっと、口の中に含んでレロレロって舐めたり、唇で挟んだりしてよ。ポプシクルみたいにさ。あと、してるとこ、ちゃんと見たい」  快感に喘ぎながら、勇樹は、訓志の顎を少し上げさせる。勇樹の意図に気付いた訓志は、挑戦的な視線を送り、音を立てて、しゃぶり始めた。 「あっ! はあっ……。ああ……、気持ち良いよ訓志」  彼の口と手の中で、びくびくと自身は脈を打っている。淫らな妄想が実現したことの興奮も相まって、勇樹は急速に昂った。すると、訓志は、先端と茎の繋ぎ目の括れを唇で扱き、会陰を撫で、優しく双球を揉んだ。 「~~~~~っ!!」  予告なく一番の急所を攻められ、勇樹は声を発する間もなく射精した。  一方的に可愛がられて達してしまい、勇樹は、急速に力を失う自身にガックリしたが、訓志は勇樹を絶頂に導いて満足げだ。 「うふふ。勇樹、気持ち良かった?」 「……うん」 「ポプシクル食べてる時の僕を見てる勇樹の目線に、僕、妙な気持ちになっちゃってさ」 「いや、妙な気持ちになったのは、俺が先かも。ごめん」 「ううん。色っぽくてゾクゾクした。……勇樹から出るのがいちごミルクとかだったらいいのにな」 「……それは、ちょっと嫌かな」  小悪魔みたいにコケティッシュな表情の訓志に微笑み掛けられ、勇樹は力弱く苦笑した。               おしまい🍓

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