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【番外編】初めてのハロウィンパーティー (1/3)
スーパーマーケットの花売り場や駐車場に、巨大なオレンジ色のカボチャが並ぶシーズンがやって来た。
「ねぇ、勇樹 。あのカボチャって、食べられるの?」
「いやー、どうだろう? くりぬいてランタンを作るためのものだから、味は美味しくないんじゃないか?」
日本でも、ハロウィンは定番行事になりつつあるが、やはりアメリカは本格的だ。デパートやショッピングモールも盛大に飾り付けされて、子どもでなくとも、何となくワクワクしてしまう。
「……それより、そろそろ帰らなきゃ。お手伝いを頼んでる人たちが、うちに来ちゃうよ」
勇樹はチュッと訓志 の頬にキスして、優しい声で帰宅を促す。勇樹の甘い態度に機嫌を良くした訓志は、素直に頷いてカボチャ売り場を後にした。今日は、二人の自宅に友人たちを招いて、バーベキューパーティーを開く予定だ。三十人以上は集まる賑やかな会になるので、主に料理上手なフードドライブの友人には、料理の準備を頼んである。
「……そう言えば、ここ数年やってないけど、ハロウィンパーティーやってみる?」
訓志とフードドライブの友人たちの用意したアペタイザーの数々、勇樹の焼き上げたお肉をお腹一杯平らげ、思い思いの飲み物を手に、一同はリラックスモードだ。ワインやビール、レモネードなど、様々な飲み物がクーラーボックスに用意してある。
そんな中、フードドライブの料理作りの女性リーダーが口火を切った。
「ハロウィンパーティーって、仮装とかするんでしょ?」
期待に目をキラキラさせて、訓志が身を乗り出す。
「やだサトシ、子どもみたい。そんなに仮装がしたいの?」
「……だって、みんなは子どもの頃、さんざんやってるだろうけど。僕、そういうイベント参加したことないんだもん」
からかわれてシュンとなった訓志を見て、親友のディックがフォローする。
「やろうよ、パーティー。どうせボランティアのために集まるんだから、ついでに何品か自分たち用にハロウィン料理を作って、配達が終わったら、打上げみたいな感じでさ。サトシの仮装も見てみたいし」
「あー、良いねぇ。俺も見たいな。訓志、女装とか似合いそう」
勇樹が、酔った勢いで隠れた願望をポロリとこぼすと、みんなが食いついた。
「サトシの女装!! それ絶対良い! 間違いなく似合う!」
「見たい、見たい!」
鼻息荒く盛り上がる面々を前に、パーティーをしたいと言い出した手前、引っ込みがつきづらくなった訓志は困り顔だ。
「ええっ……。僕、女装なんか、したことないよ。オバケみたいになっちゃうかもよ?」
「大丈夫、それならそれで、ハロウィンらしいから。でもサトシなら絶対可愛くなると思うけどね」
みんなに説得され、訓志は、ハロウィンパーティーに女装で参加することになった。しかも、話し合ううちに、次第にみんな真剣になり、
『ボランティアのついでだと、仮装が中途半端で面白くない。どうせなら別の日にガッチリ決めて集まろう』
と、意見がまとまった。
次の日から暇さえあれば、パソコンで真剣にコスチュームを探す訓志の姿があった。
「訓志ごめんな? 俺が、つい悪乗りしちゃって。もし手伝えることがあれば、何でも言ってくれよ。あと、訓志の仮装が決まったら、俺もちゃんと合わせるからさ」
「ホントだよ……。みんなにあそこまで言われたら、断りづらいじゃないか。……あ、僕、衣装買いに、ちょっとサンフランシスコまで行ってくる。良さげなお店見つけたから」
申し訳なさそうにしている勇樹をジトリと横目で睨み、訓志は立ち上がった。
「えっ、シティまで行くの? 俺、クルマ出そうか?」
「僕一人で大丈夫」
勇樹の付き添いを断り、訓志は一人で出かけた。
「ユウキ、サトシのハロウィンパーティーの準備は進んでるの?」
会社の休憩コーナーで、勇樹とディックはコーヒーを飲みながら話していた。ディックは最近、契約社員 として勇樹の会社で働いている。日本人のボーイフレンドができたディックと勇樹は、今や大の仲良しだ。
「たぶんね。メイクアップの練習もしてるみたい。……だけど、俺には、衣装もメイクも絶対見せてくれないんだよ」
「サプライズにしようと思ってるんじゃない? ちなみに、ユウキの仮装は決まった?」
不満げな勇樹を、ディックは、さり気なく慰めた。
「あぁ……。訓志からは、タキシードを着ろって言われてるんだ」
勇樹が打ち明けると、ディックは暫し、考え込む表情を浮かべた。ディックと訓志は、映画や音楽など共通の趣味が多い。
「ユウキがタキシードってことは、かなりドレスアップするつもりなんだね。……『007 』じゃない? ジェームス・ボンドとボンドガールだよ、たぶん」
「なるほどね。ありがとう、ディック。……でも、なんで俺に見せてくれないのかなぁ」
「ユウキのことも、驚かせたいんだよ。だって、彼にとっては初めてのハロウィンパーティーなんだろ? 分かってあげなよ」
相変わらず過保護な勇樹に、ディックは苦笑した。
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