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【番外編】初めてのハロウィンパーティー (2/3)
そしてハロウィンパーティー当日。
フードドライブの創設者、ミランダが会場として提供してくれた彼女の自宅に、思い思いに仮装したゲストたちが集まってきた。普段とは異なる友人の姿に談笑も盛り上がる中、一組のゲストの到着に、みんなが注目した。
髪をオールバックに撫で付け、身体にぴったりのタキシードに身を包んだ勇樹。
隣には、プラチナブロンドのロングヘアに、ワンショルダーのロイヤルブルーのドレスを纏う国籍不詳の謎めいた美女…… と思ったら、訓志。
「ハッピー・ハロウィーン! どうかな? 僕、みんなの期待に応えられた?」
勇樹の見事な紳士ぶりもさることながら、訓志の化けっぷりたるや、本物の女優と見まごう本格的なドレスアップだ。余興のレベルを遥かに超えている。一同は一瞬、唖然とした。しかし、ニッコリ彼が笑顔を浮かべると、まずは女性陣が黄色い声をあげながら訓志に近付く。
「すごいわ、サトシ! 今日一番の美女だわ! メイクも上手。自分でやったの?」
「スリットから覗く脚がセクシー!」
賞賛の眼差しで見詰められ、訓志は満更でもなさそうな表情を浮かべながら答える。
「実は、このドレス、女性用なんだ。男性の女装用ドレスは、サイズが合わなくて。化粧品はデパートで買ったんだけど、訳を話したら、親切にメイクの仕方も教えてくれたよ」
コミュニティカレッジでの訓志の先輩講師・ジャネットが、声をひそめて遠慮がちに訓志に聞いた。
「……ちなみに、その胸は、どうしたの?」
「うふふ。……ブラに、ストッキングを詰めたんだ」
含み笑いする訓志に、女性陣が、したり顔を浮かべて頷き合う。
男性陣は、溜め息をつきながら、勇樹と一緒に遠巻きに眺める。
「うわー……。すごいなぁ。ボンドムービーに今すぐ出れそうなクオリティだ」
「ユウキ、あんなにサトシに女装が似合うって、本当に知らなかったのか?」
「彼の女装を見たのは、これが初めてだよ。俺、パートナーに女装させる性癖はないから。訓志の奴、今日のドレスもウィッグも、一切見せてくれなかったんだぜ」
ひとしきり訓志を囲んで盛り上がった女性陣が、今度は勇樹のところへやって来た。
「サトシの化けっぷりには驚いたけど、ユウキ、あなたもとってもセクシーで素敵。そのタキシード、あなたの身体にぴったりね。まるで誂えたみたい」
「ありがとう。滅多に着る機会が無いんだけど、いちおう嗜 みとして、一着作ってあったんだ。役に立って良かったよ」
「まぁ、ホントにオーダーメイドなの?! ……本物の英国紳士みたいね」
主催者であるミランダに挨拶に行く、と、二人はその場を離れようとするが、みんなが二人と一緒に写真を撮りたがる。ミランダのところに辿り着いた時は、パーティー後半に差し掛かっていた。ミランダも、二人の見事なドレスアップに殊の外喜んでくれた。
「……はぁ~」
自宅に帰ってきた訓志は、満足げに溜め息をつき、ソファーに倒れ込んだ。
「ハイヒールで脚が疲れちゃった。女の人って大変だよね。毎日こんなの履いてるんだもん」
「お疲れ様。完璧なボンドガールだったよ」
小さく口を尖らせた訓志を宥 めるように、勇樹は、訓志の脚を優しく撫でる。
「んんっ……。もうちょっと強くふくらはぎとか揉んでくれると、すごく助かる」
眉をひそめた訓志に、勇樹はいたわるように微笑みかけ、ふくらはぎに圧をかけて揉みほぐす。
「ああっ……。良い感じ」
心地良さに瞼を閉じて鼻を鳴らし、眉間や身体から余分な力が抜けてきたのを見て取り、勇樹は訓志の足元に跪 き、恭 しく足を持ち上げ、そっとハイヒールを脱がせた。
その瞬間、瞼を持ち上げた訓志の視線が、勇樹のそれと絡む。訓志が足を組み替えると、膝の裏に噴きかけたトワレの残り香が立ちのぼる。俄かに二人の間の沈黙が性的な色を帯びるが、勇樹はジャケットを脱ぎ、ブラックタイを外して、爽やかな笑顔で立ち上がった。
「訓志、パーティで殆ど飲み食いしてないだろ? なんか持ってくるよ」
冷蔵庫からチーズとかまぼこ、スパークリングウォーター、戸棚からクラッカーを取り出してリビングテーブルに並べ、飲みかけのワインとグラスを二つ持ってきた。お酒に強くない訓志のために、スパークリングウォーターでワインを割り、ワインクーラーを作って手渡す。
「……せっかくのドレスアップだからさ。一杯、付き合ってよ。薄めに作っといた」
「……ん。ありがと、勇樹」
しどけない仕草でおつまみを口に運び、ワインクーラーのグラスを飲み干す頃には、訓志の頬は少し赤くなっていた。
「少し酔った? 水かお茶、持ってこようか」
「ん。僕、お手洗いに行ってくるー」
バスルームに向かう訓志の足取りは、既に千鳥足だ。
(ちょっと飲ませすぎたかな……)
キッチンカウンターで、勇樹がスコッチを一口楽しんでいると、訓志が背後から身体を擦り寄せる。
「勇樹、何飲んでるの?」
「スコッチだよ。訓志はダメ。もう酔ってるだろ?」
「何だよぉ。勇樹、いっつも僕のこと、子ども扱いするんだからー」
「そんな頬をプウッと膨らませて、大人だって言っても説得力ないぞ?」
メイクだけでなく、お酒で血行が良くなり薔薇色に染まった頬をつつくと、訓志は目を伏せて、そっと勇樹に口付けた。
「……苦くて甘い」
静かに舌を差し入れ、勇樹の口の中に残るスコッチを味見した訓志は、唇を舐めながら呟いた。
「どう? 好きな味だった?」
「勇樹の舌のほうが美味しい」
澄ました顔で大胆なおねだりを口にする訓志に、今度は、勇樹から口付ける。お互いの欲望が露わになる。長いキスを交わした後、一度唇が離れると、ニヤリと共犯者の笑みを浮かべ、訓志は、勇樹の唇を指先で拭う。
「ふふっ。口紅、付いちゃった。男同士だと普段、こういうのないから、なんか新鮮」
「ああ、そうだな。……俺さ、パートナーに女装させる趣味はないと思ってたんだけど。今日の訓志、すごくセクシーで、ドキドキしたよ」
「僕も。さっき、ハイヒール脱がせてくれたでしょ? あの仕草、映画ではよく見るけど、体験してみたら、すごくエロティックだった」
背後から訓志を抱き竦め、腕の中で揺すりながら、勇樹が拗ねたように聞く。
「話変えて良い? ねぇ、なんで今日までドレスとか見せてくれなかったの?」
「……恥ずかしかったんだよ。初めてで、うまく行くか不安だったし」
照れ臭そうに訓志は答えた。
「すごく綺麗だよ」
ロングヘアのウィッグを指で梳く。隙間から覗いた首筋から、露わになっている訓志の肩へと、勇樹は唇を這わせた。同時に、スカートのスリットから指を忍び込ませ、ゆっくり足を撫で上げる。
「んんっ……。あっ……」
少しむずかるような表情で駄々をこねたが、勇樹が脚の付け根に触れると、訓志は小さく切なげな吐息をついた。勇樹は焦らすように、ストッキングのガーター部分を指先でなぞる。
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