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第2話

 クリスマスは朝から雪景色だった。  告白の言葉を一晩考えたが、なかなかいい言葉が浮かばなくて、もうこうなったらぶっつけ本番だと思いながら、待ち合わせのコーヒーショップの前で池田を見つけた。 「何で外に。中にいればいいのに」  一人呟きながら、沢渡はふと足を止める。  店の前で沢渡を待つ池田の表情が、やけに虚ろだったからだ。元々顔に大げさな感情を乗せるタイプではないが、それでも沢渡といる時は、いつでも楽しそうで、それは待ち合わせに遅れてしまった時だってそうだった。 『絶対来てくれる人を待つのって、好きだ』  そんな事を言いながら、遅れた沢渡を甘やかす。  その池田が暗い目をしている事が、どうにも気になった。何を見ているのかと池田のぼんやりした視線の先を追うと、そこには駅前通りのイルミネーションから続く、大きなクリスマスツリーがあった。そのツリーを、池田はじっと暗い目で見つめ続けている。  酷く、苦しくなった。  池田のそんな表情を見るのは、過去の話を聞いた時以来だからだ。 『俺ってほら、親いねーじゃん? 小学から施設だったし』  普段はまるで気にしていないようなそぶりをするけれど、時折、池田は苦しげにその事を沢渡にぶつけた。きっと、世界中の誰だって、池田の気持ちを分かる事はできない。同じ境遇にいたとしても、その苦しみは本人だけのものだ。ましてや、同じ境遇でもない沢渡は、共感してやる事もできず、苦しかった。  それでも、今は俺が側にいてやるから、と根気よく言い続けて今がある。最近では、その事で苦しい顔をする事もなくなっていたのだ。  それなのに。  ――嫌な予感。  もう、少しだって池田の暗い表情は見たくない。  思わず駆けて池田の腕を掴むと、驚いたような顔は、直ぐに嬉しそうな微笑みに変わる。 「おう、待たせたな、悪い」 「待ってないよ」 「冷えてるだろ、早く行こうぜ」  池田の腕を掴んだままで引くと、素直についてくる。調子に乗った手が、沢渡の指に絡んだ時には振り払ったが 「ちぇ、当真さんのケチ」  文句を言う顔にさっきまでの暗さはなく、本当に楽しそうだった。  ――よかった。  ほっと息をついて笑うと、池田も嬉しそうに笑う。 「今日、返事くれるんだよね?」 「――おう。だから、早く帰ろう。ケーキ受け取ってから」 「ケーキとかいいから、早く返事欲しいんだけど。ね、俺、当真さんが好き。当真さんは?」 「うるせーな!」  人目をはばからず耳元で囁く池田の頭を叩いて黙らせると、少しだけ後悔した。  ――俺、こいつを甘やかしすぎたかなー。

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