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春がきた夢。
澪自身が陽輝に結婚を打ち明ける10日前、家では滅多に会わない父に呼ばれ、紫雨の中央にある屋敷に来ていた。
そろそろ白髪が生えている歳だけど、黒染めをしたのか、真っ黒な髪を中央で分けた、父が目を合わさずに話出す。
「来たか。お前にしか頼めない役割がある。いいか。うちの分家の1つ山鹿家の長女がお前を気にいってくれている。山鹿家は、分家だが独自の事業で十二分に世話になっている。これから、あちらの家へ秘密裏に会わすから、機嫌をとってこい、、いいな。」
未だ名も知らずの女性と会うことは、決定事項だろう。そして、口にはだされていないが、生涯を共にするのだろう。
首を縦に振り父の部屋を出て命じられた付き人と車に乗り山鹿家に行く。
澪は、自分が産まれて今まで否定することは許されなかった。だがら、自分の意思を聞くようなことは、意味がないから、、やめてほしい。だって、聞かれると、自分の意思を言ってしまいそうになるから。
自分の本当に願っていることなんて叶わない。だって、そう教えられたし、、口に出して叶ったことなんてたったの1度もないのだから。
山鹿家は、高級住宅街の中に優しく建っていた。優しくとは、木々が家を囲うように植えられ花をメインとした緑の洋館だった。
着いて向こうの両親に迎え入れられて、ラタンのテーブルに紅茶が注がれる。こんないい待遇は陽輝の家以外でされたことがなかったので驚いた。しかし、山鹿家の両親の顔には、苦情の顔が時折見え隠れしており、自分が歓迎されないことを改めて確信した。
両親が沈黙に耐えられないという表情で重い口を開く。「娘は、庭におります。どうか、迎えに行ってくださいませ」
澪は、どんな顔で会えば良いのか分からずに、家政婦に促されるままに庭に着いてしまう。
中央に噴水と白いベンチがあり、山鹿家の長女は後ろを向いて座っていた。澪を連れてきた家政婦は、そくささときた道を戻ってしまった。俺は、どうすればいいのか、、、庭の入口でオロオロとしていた。
気配が分かったのだろうか。黒く艶がある長い髪がバサリと音をたてるように少女は振り向いた。振り向いて、俺に気づいた彼女は、薄紅梅の色の口をちょこんとつけて微笑んで近づいてきた。顔は、
とても愛らしく可愛いかったーーーー。
顔を見た瞬間に俺の頬は、熱が灯り、世界が彩るようだった。
「澪さん!ずっとお会いしたかったのです。私、以前紫雨家で稽古して頂いた時に澪さんを見かけましたの!その時に思ってしまったのです!なんと、お美しい方なんだろうってー」
彼女に圧倒されてしまった澪に気づいたのか、
思い出したように、手を前に揃えペコりとお辞儀をして言った。
「あ、、失礼致しました。自己紹介もまだでしたのに、、、まくし立ててしまい、、、私、山鹿家長女、山鹿
紫苑と言います。」
澪もつられて、ボソリと自己紹介をする。女子と会話するのは、いつぶりだろうか。
ド緊張の澪を紫苑は、手を引きベンチへ座る。
澪は、もう何を話をしていいのか、なにをすればいいのか、何も、分からなかった。でも、このままだったら、彼女に嫌われてしまうーー。
「澪さん、澪が不当な扱いを受けていることは、ある程度噂で耳にしております。。しかし、紫雨家に稽古に伺って貴方を一瞬見ることが出来ましたの。その頃から、胸が熱く締め付けますの。どうか、私と結婚してくださいまし。」
澪の横で顔を赤らめた彼女は、澪を一瞬で恋に落とさせたようだ。
「あ、俺なんかでよければ……」今までにないくらいに赤く染まった澪は、答える。
「俺なんか、なんて言わないでください!貴方様は、ちゃんと魅力があります。」
俺を持ち上げてくれる言葉なんて、陽輝ぐらいしかいなかったのに。。。。
そこからは、もう楽しく話して、家のこと、友人のこと、将来のことを話した。そして、最後には、結婚の話を約束して帰ってきた。
紫苑に会ってから、初めての感情でワクワクした日々だったーーーーーー
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